最期の楽園

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「大丈夫。二度と不幸にはしないから、うちにおいでって」  それから彼は老夫婦に引き取られて、美味しいご飯を貰い、温かい寝床で寝かせてもらったようだった。  最初はもちろん、信じられなくて、簡単には心を許さなかった。  だけど一緒に過ごしていくうちに、今度こそ幸せになれるかもしれないと思えるようになったそうだ。  一緒に遊んでくれたり、昼寝をしたり、穏やかな日々は、今も忘れられないと彼は遠い目をして語った。 「おじいさんは釣りが趣味でね。よく、新鮮な魚を捕ってきては、少しだけ食べさせてくれたんだ。そしたらおばあさんが、食べさせすぎないようにって怒って――」  彼はおかしかったのか、小さく笑った。 「膝に乗ると撫でてくれる手が心地よかったし、縁側で温かい春の風を感じながらする昼寝も最高だった。彼らに出会わなかったら、僕はきっと、あそこで死を待ちながら人を恨み続けていたかもしれない」 「……良い人間に出会えたんだな」  俺はそれを言うのが精一杯だった。  何故なら、少しだけ羨ましく感じていたからだ。 「別れの挨拶はしてきたけど、二人が探してたりしないよね?」  急に不安を覚えたのか、彼は戸惑うように聞いてくる。 「別れの挨拶って、人間に分かるのか? もしかしたら、君のこと探してたりしないか?」  不安を煽る気はなかったが、そんな良い飼い主であったのならば、もしかするとずっと探している可能性だってある。  よく、電柱に貼られていた紙には、猫の写真が貼られていた。初めて見た時には何なのか分からなかったが、仲間の一匹が「それ、俺なんだよ」と言ったことで、それが猫を探すためのものだと知った。
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