最期の楽園

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 探されていて分かっているのに、何故帰らないのか。俺が訊ねた時、「ちゃんと別れの挨拶したんだけどな」と、その仲間は首を傾げていた。 「気付いてないかもしれない」  何か思い当たることでもあるのか、彼は不安を滲ませる。 「分からない。だけど、その可能性はゼロじゃないな」  俺がそう言うと、彼は急に黙り込んでしまい、そのまま立ち去っていった。  日に日に俺は、横になっていることが多くなっていた。  食事はおろか、大好きなマタタビを舐める余裕もなく、ただ日がな一日、青い空の下で呼吸を繰り返していた。  心配した仲間が、何度も俺の前に来ては話しかけてくれたり、ご飯を運んでくれていた。  誰も悲しい顔をしない。死は誰にでも平等に訪れると知っているし、ここでは死は日常茶飯事だからだ。  俺も死ぬことは怖くなかった。死んだらどうなるのか、また猫としての人生を歩んでいくのか。  本当のことは分からないけれど、「生まれ変わっても同じ人生がいい」と言っていた元飼い猫の言葉は今も胸に残っていた。  その彼もまた同様に病が進行しているのか、毛の割合よりも肌の露出が増えていた。以前よりも足取りが重く、フラフラしているようにも思える。 「今日はお別れを言いにきたんだ」  彼は俺の近くに腰を下ろすと、そう言った。ここ最近、姿を見かけなかったのは、体が辛かったせいなのだろう。 「悪いな。本当は俺が先に行くべきだったんだろうけど」  目の前に置かれた猫じゃらしの草を前に、俺は年配者として恥ずかしかった。 「違うんだ。僕はこれから、ここを発とうと思ってて」 「嘘だろ。ここを出て行くのか?」  驚きのあまり、俺は久しぶりに体を起こした。ここを出て行くと切り出した者は、今まで一匹たりとも聞いたこともない。 「出て行ってどうするんだ? もしかして、飼い主のところに戻るつもりじゃ、ないだろうな」  攻める口調になってしまったのは、彼の身を案じるからこそだ。その場所がどこにあるのか知らないが、この場所にたどり着けたこと事態が奇跡に等しい。それなのに、戻るなんて相当難しいはずだ。
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