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「やめておいた方が良い。たどり着く前に、命が尽きてしまう」
「分かってる。だけど、二人の元へ帰りたいんだ」
「だからって――」
「僕はここに来て、多くの死を見てきた。それで気付いたんだ。最期を看取ってあげられるって、幸せなことなんだって」
彼は後悔しているように目を伏せた。
「僕は自分勝手だった。自分がよかれと思って家を出てきたけれど、今考えると間違っていたかもしれない。このままだと僕が死んでも、彼らはずっと探し続けるかもしれないって」
「だけど、家の場所は分かるのか? いくら来たのがここ二、三ヶ月とはいえ、覚えてるはずがない」
「……正直、帰れるか分からない。だけど、僕は後悔したまま死にたくないんだ」
彼の意思は強いようで、俺の訴えは届かないようだった。
「そうか……分かった。無事にたどり着けるように、向こうからでも願っているよ」
俺は諦めたように体を伏せる。力尽くで引き留められるような体力は、俺にはもう残っていなかった。「ありがとう。最期を看取ってあげられなくてごめん」
「いいさ。餞別も貰ったしな。それに俺が死ぬのを待ってたら、それこそ間に合わなくなるだろ」
看取ってくれる仲間が一匹減るのは、正直寂しい。それでも、彼の決意を自分のわがままで引き留めるのは忍びなかった。それに命を賭けた決断を応援してあげることが、本当の仲間だと言えるはずだ。
「良い終焉を迎えるんだぞ」
俺はそう言って背中を押す。
「ありがとう。また、貴方に会えるといいな」
それから彼は、俺に背を向ける。
遠くなっていく背を見送りながら、俺は思う。
生まれ変わったら、飼い猫でも良いかもしれないと――
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