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「『先生』はつまんないよ。仲良くもなれなそうだし」
――そうだ。俺は彼と仲良くなりたいだけだ。俺は、自分と性格が違う人のことも理解したいと思っている。とっかかりを探るために、バカなふりしてハイテンションで話しかけているのだ。
「仲良くなれなくて結構。僕は生徒と馴れ合いをするつもりはありませんので」
ふいっと顔ごとそらされてしまった。
「けち」
口を尖らせながら勉強机に向かうと、彼の深いため息が聞こえた。
「君は、家庭教師を『友達ごっこ』ができる存在だと勘違いしてませんか? 僕は君に勉強を教えるために雇われています。それ以外は僕の仕事ではありません」
彼が、後ろ手でぴしゃりと部屋の扉を閉めた。今の衝撃で、俺と彼の間に見えない扉が立てられてしまったような気がした。
――でも「僕」って言った。母さんの前では「私」だったのに。俺に少しは気を許してくれているのかもしれない。
言っていることは厳しいが、少しだけ彼に近づけたような嬉しさを覚えてしまう。
――嬉しい? なぜ?
――先生と仲良くなれた気がするから、だろ? それ以外に何がある?
俺はぎゅっと目を瞑った。おかしい。彼が家に来てから、俺はずっとふわふわしている。まるで自分ではないみたいだ。
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