雪のような人

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「とりあえず、君の学力を見たいので、テストを見せていただけませんか?」  彼がこちらに近づいてくる。見えない扉が、あっという間に取り払われてしまったかのように、簡単に距離を詰めてくる。彼との付き合い方が、まったく分からない。  心臓が音を立てている。彼が折り畳み椅子に座った。 「どうかしましたか?」  思わず後ずさりした俺を、彼が不思議そうに見上げる。その顔を見て、なぜか野良猫を思い出した。高校に行く途中、たまに見かける黒猫。遠くからじっと俺のことを見つめてくるくせに、少しでも近づくとぴゃっと逃げていく。  机の真ん中にある引き出しに、手を伸ばした。彼との距離が縮まる。彼はあの猫と違って逃げなかった。俺は無言で引き出しを開けた。  中には、ぐちゃぐちゃになったテストの答案が詰め込まれていた。高校一年生の一学期中間テストの答案から、今までのものが全てここに入っている。  彼は一瞬目を細めると、その中の一枚をつまみ上げた。机の上で丁寧にしわをのばして広げる。二年生の二学期末の数学のテストだった。二〇点という赤ペンで書かれた点数が、学校で見た時よりもはっきりと浮き出ているような気がして、俺は恥ずかしくなった。 「ありがとうございます。しばらくこちらに集中させていただきます。君はこれを解いておいてください」  彼が鞄からA4版の英単語テストを取り出して、机に置いた。 「学校でどの単元まで習っているのか分かりませんでしたので、とりあえず高一で習う重要単語でテストを作ってみました。まずは自力でやってみてください」 「はいはい」  俺は生返事をして、シャープペンシルを手に取った。左側に英単語があり、右のカッコに日本語で意味を書いていく形式のテストだ。一目見ただけで分かる。これは解けそうもない。  彼の気が済むまで、勉強しているふりをしながら、彼を観察することにした。 「なんですか。僕の顔を見ても問題は書いてませんよ」
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