97人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕は、減点法なんです」
彼の声の調子が先程までと変わらなくて、ほっとする。恐る恐る、顔を彼の方に戻した。俯いているせいか、彼の顔に影ができている。相槌に悩んでいたら、彼が顔を上げて勝手に続きを話し始めた。
「僕、顔だけは整っているので、モテると思われがちなんです」
軽やかな口調。喋っている内容が聞こえなければ、「今日のおにぎりの中身は鮭です」程度のことを話しているように見えるだろう。
――いやいや、イケメンだって自覚してるのかよ。
呆れるを通り越して、いっそ清々しい。
「俺も先生のこと、かっこいいと思うよ。絶対モテるでしょ」
人から言われたらどんな反応を示すのか気になって、目をのぞきこんでみると、彼はすました表情で「ありがとうございます」と言った。
彼が自分の容姿に絶対的な自信を持っているという事実が強調されただけだった。彼は飄々と続ける。
「でも、実際は全然モテません。周りの人たちが声をひそめて喋っていました。あいつは顔がいいだけ、頼りない、運動ができない、毒舌すぎる、理屈っぽい、根暗、賢いけれど融通がきかない、等々。僕みたいな顔の人は、第一印象がいいでしょう? それだと減点法なんです」
よく分からなくて首を傾げてみせると、彼がかすかに笑った。
「君みたいなタイプは加点法ですね。やんちゃな見た目、年上でも初対面でも関係なくタメ口をきくような君は、第一印象が良くありません」
「今、さりげなく俺のことをけなしたよね!?」
俺の抗議の声は無視された。
「そんな君が、気まぐれで廊下に落ちているゴミを拾ったとします――」
「俺、落ちてるゴミはいつも拾ってるよ」
口を挟むと、彼がめんどくさそうに眉根を寄せた。
「たとえ話であって、事実を確認したいわけではないので黙っててください」
「……はい」
俺の話を聞く気はないようだ。口をつぐむ。
最初のコメントを投稿しよう!