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「君みたいにやんちゃな人がゴミを拾ったら、『意外といい人だった!』となるわけです。逆に僕の場合は、ゴミを拾っても好感度は上がりません。『当たり前』だからです。でも、すれ違ったクラスメイトの挨拶をうっかり聞き逃して、返事をしなかったりすると『感じ悪い』と思われるんですよ。僕が挨拶を無視したら、たとえそれが一度きりであっても、『期待を裏切られた』という気持ちが相手に残るんです。期待、なんて勝手にされても困るんですけどね」
相変わらず軽い口ぶりだが、彼の声がわずかに沈んでいるような気がして、何か言わなきゃと思った。
「わざと無視したわけじゃないんだから、先生は悪くないんじゃない?」
「だからこれは『たとえ話』であって……はぁ、もういいです」
彼がため息をつき、額に手を当てた。
「なんで!? 俺、変なこと言った?」
ちらりと俺を見た彼が、独り言のように呟いた。
「減点法よりは、加点法の方が絶対いいです。だから僕は髪を伸ばしているんです」
「どういう意味?」
俺が問うと、彼は腕時計を見て顔をしかめた。
「もう十七分も無駄にしてしまいました」
「俺は、先生のことを少し知れた気がして、嬉しかったよ」
彼が机の上からテキストを持ち上げ、俺の眼前に突き付けてきた。
「僕に関する情報を覚える余裕があるなら、勉強してください。脳のメモリがもったいない。『角巻健人』は受験の科目にありませんよ」
「でもこれ、中一のやつだろ?」
「だから何です?」
冷ややかな声だった。
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