雪のような人

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 第一印象は「きれいなひと」だった。  玄関先で「角巻(つのまき)健人(けんと)」と名乗ったその人は今、俺の右隣にいる。  今日から俺の家庭教師をすることになった彼は、俺の定期テストの答案を見つめていた。  彼の手作りだという英単語テストを与えられたものの、無機質なアルファベットの羅列にしか見えないやつの意味など分かるはずがない。カッコを一つも埋めることができない俺は、時間を持て余している。どうせ暇だから、彼の横顔を観察することにした。  やっぱり第一印象は間違っていなかった、と思う。長い前髪を耳にかけ、手に持った紙を俯き加減で見つめる彼は、玄関先で会った時よりも顔が見えるようになったぶん、余計に美しく感じられた。眼鏡の奥の目は、下を向いているために、まぶたが降りてまつ毛の長さが際立っているし、眉間から鼻先にかけての筋は真っ直ぐに伸びている。毛穴など存在していないのではと思うほどつるりとした肌に、真一文字に結ばれた口まで、なぜだか色気を感じられる。  と、その口が動いた。 「なんですか。僕の顔を見ても問題は書いてませんよ」 「先生、きれいだなぁと思って」  視線に気づかれていた恥ずかしさで、俺はとっさに口走ってしまった。完全に間違えたと思ったが、もう遅い。彼の整った顔が、こちらに向けられる。すっ、と彼の目が細められた。
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