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水曜日。学校から帰宅後、パーカーに着替えて部屋で友だちからのメッセージに返信していると、控えめなノックの音が聞こえた。
「はーい」と返事をしながら振り向く。先生が立っていた。
「もうそんな時間なんだね」
立ち上がって出迎えると、先生が俺の手元を指さした。
「それ、ラブラドールレトリバーですか?」
先生は、俺のスマートフォンカバーに付いている、小さな洋銀のストラップのことを言っているようだった。親指の第一関節ほどの大きさの銀色の犬が揺れている。
一年以上付けっぱなしだから、ストラップの存在を意識したのは久しぶりだった。
「多分そうだと思う」
「誰かからの贈り物ですか?」
「母さんだよ。誕生日でも何でもなかったのに、突然『悠里に似てる』って買ってきた」
「確かに、君は犬っぽいですね」
先生はストラップと俺を交互に見比べている。
「へへ。俺、犬好きだから嬉しいな」
にいっと笑うと、先生の目尻が下がった。
「やっぱり君は分かりやすいです。ちぎれんばかりに振られているしっぽが見えるようですよ」
「え? しっぽ?」
俺が後ろを向くと、先生が吹き出した。
「比喩に決まってるでしょう。君は馬鹿なんですか?」
「あー! だから、『バカって言われると、ほんとにバカになる』って言ったじゃん! 俺がバカになったら先生のせいだからな?」
「……誰かに、そう言われたんですか?」
急に先生の声が低くなり、驚く。
「えっ?」
「この前も言ってましたよね? 『馬鹿って言われると、本当に馬鹿になる』。珍しいと思ったんです。『馬鹿って言ってくる人の方が馬鹿なんだ』とは聞いたことがありますが、その逆はあまり聞いたことがなくて。誰かの言葉ですか?」
先生が俺の目をじっと見ていた。俺は意識して口角を引き上げた。
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