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「死んだ父さんだよ」
「……そうですか。すみません」
「なんで謝るの?」
「気分を害してしまったかなと思いまして」
失敗した。自分の中では吹っ切れていることなのに、話題が話題だけに、やはり気を遣われてしまった。慎重に、明るめの声で喋り出す。
「父さんのことなら十年も前だし、全然へーきだよ。それとも『バカ』のこと? こっちも大丈夫。俺、言われ慣れてるし。自分でもバカだなーって思うし」
へへっ、と頭をかいて笑って見せたが、先生の顔は暗い。
「どうしたの?」
「僕の『馬鹿』には敏感なのに、自分には『馬鹿』って言い聞かせてしまうのですね」
先生は俯いた。顔は見えなかったけれど、なんだか声が震えているような気がした。
「先生?」
顔をのぞきこもうとしたが、先生は後ろを向いてしまった。背中越しに、俺に話しかけてくる。
「それに、田丸さんには『馬鹿って言うな』と抗議しないのですね」
先生は気づいていたのだ。最初の日、「うちの息子、馬鹿だから大変だと思いますけど、よろしくお願いしますね」という母さんの発言に俯いてしまった俺の姿に。
――あの時の視線は、「なんで言い返さないの?」っていう意味だったのか。
「君はどれだけ、『馬鹿』という言葉を浴びせられてきたのですか?」
どうしてだろう。先生はどうして、そんなに悲しそうな声を出すんだろう。先生が言われているわけではないのに、どうしてそんなに傷ついたような話し方をするんだろう。「バカ」は言われ慣れていて、俺自身はちっとも傷ついていないのに。
――なんて。嘘だ。
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