犬と猫

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  *  顔を洗って部屋に戻ると、先生が椅子から立ち上がった。 「これ」  手に持った冊子を掲げて俺に見せてくる。この前先生が置いていった、中一の数学と英語の問題集だ。 「全部やったんですね。すごいです」  洗面所の鏡で確認した時には俺の目も鼻も真っ赤で、泣いたことは誰の目から見ても明らかだった。それなのに、先生はそこに触れずにいてくれる。 「丸付け、しておきました」  差し出された問題集を受け取り、パラパラとめくれば、赤ペンの花丸がたくさん咲き乱れていた。後半のページに差し掛かった時に気がついた。一ページごとに、着実に花丸が上達している。バランスの取れた、きれいな花丸になっていく。  ――こんな整った花丸を描けるようになるくらい、たくさん描いてくれたってことか。  笑い声とため息の中間の音が、口から漏れた。 「良かったですね」  しみじみと噛みしめるような口調だった。先生は何が「良かった」のかは言わなかった。「笑えるようになって」なのか、「中一の勉強は問題がないことが分かって」なのか分からないけれど、俺は先生が笑ってくれて良かったと思った。 「今日は復習プリントを作ってきましたので、残りの時間やってみましょう」  先生が鞄からホチキス留めされた束を机の上に置いた。勉強机の前の椅子に座り、その束を手に取ってめくった。数学と英語の問題が、それぞれ十枚ずつ綴じられていた。 「君が定期テストで間違えていた部分の類似問題です。今回は高校一年生の復習にしました。この前は、『見なくても解けることが分かるくらい』簡単な問題を持ってきて、君を怒らせてしまったようですから」  先生が冗談めかして笑った。恥ずかしく思ったが、事実だから言い返せない。黙って先生が作ってくれたプリントを眺める。
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