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※
砂糖を渡すと、悠里が紙袋を差し出してきた。
「よかったら食べて」
「これは?」
中に入っている箱を取り出して眺める。
「バレンタインチョコだよ」
悠里が恥ずかしそうに笑った。
「……もう四月ですけど」
「知ってる」
「バレンタインデーの日付も分からないくらい、馬鹿になってしまったんですか?」
「違うよ! ちゃんと分かってる。でも、ほら――去年はちゃんとできなかったから、今年は渡したくて」
悠里の声が尻すぼみになっていった。
去年。悠里を傷つけてしまったことを思い出し、眉をひそめてしまう。
あの瞬間は、悠里に情けをかけられてイラっとしてしまったのだと思っていたが、あとから考えればただの嫉妬だった。悠里があまりにもたくさんのチョコレートをもらってきたから。「幼なじみ」に悠里が取られてしまいそうに見えたから。
「隣の家の姉ちゃん」だという奥田さんからプレゼントをもらって楽しそうにしている悠里を見た瞬間、ショックを受けるよりも先に、「しっくり」きてしまった。悠里は僕の隣にいるよりも、奥田さんと一緒の方が絵面的におさまりがいい気がした。それに、あの人は絶対に悠里のことが好きだ。悠里は気づいていないようだったけれど、僕には分かる。悠里を見つめる眼差しが、愛情と期待に満ちていたから。
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