番外編 君はチョコレートみたいに

14/17

93人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
 沈黙した僕を気遣った悠里が、顔をのぞきこんでくる。 「……もしかして、嫌だった?」 「そんなわけないでしょう。嬉しいですよ」  慌てて笑顔を取り繕う。悠里がほっとしたように頬を緩ませた。 「良かった。じゃあ食べてみて」  僕が手を伸ばすより、悠里がチョコレートをつまみ取る方が早かった。そのチョコレートは、僕の口元に一直線に向かってくる。  ――これは、もしかしなくても「あーん」なのでは?  驚きが顔にあらわれそうになるが、口を開くことでごまかすことに成功した。驚いたのではない。チョコレートを食べようと思って口を開けたのだ。完璧だ。突然の「あーん」にも動じない、余裕たっぷりの大人にしか見えないに違いない。なぜか悠里が嬉しそうに笑っている。顔が熱いような気がするが、部屋の温度が高いだけだろう。  口の中に入ってきたチョコレートを噛みしめた。 「美味しいです」  甘い。ほんのりと洋酒の香りがした。今までの人生で食べてきたチョコレートの中で、一番美味しい。もう一つ食べようと手を伸ばしたとき、物欲しそうな顔をしている悠里に気づいた。 「君も食べたいんですか?」  こくん、と頷いた悠里を見たら、いたずらしたいという気持ちがむくむくと芽生えてきた。僕は、チョコレートを口にくわえて、悠里の顔に近づいていった。はじめのうちはあたふたとしていた悠里も、あと十センチでぶつかるというところで覚悟を決めたらしく、ぎゅっと目をつぶった。僕はそのまま静止する。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加