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数秒後、不思議そうな顔で悠里が目を開けた。ぱちりと目が合った。チョコレートを口から外し、微笑みかける。
「ふふ。冗談ですよ」
とろんとした目と、半開きの唇。それが徐々に変化していく。眉間にしわが寄り、口がへの字に曲がる。怒っているのだ。ぞくぞくする。もっといじめたくなる。
悠里の目を見ながら、チョコレートをわざとゆっくり噛み砕いた。
「……いじわる」
「何がです? 食べさせてあげるとは言ってませんよ。勝手に勘違いしたのは、君――」
悠里の顔が近づいてきて、言葉が途切れた。キスされる。そう思った瞬間、眼鏡が顔に食い込んだ。悠里の頭が直撃したのだ。
「痛っ。何するんですか!」
抗議の気持ちをこめて悠里をにらむ。悠里はというと、額をさすり、見せつけるように自分の唇を舐めながら、
「ほんとだ。すごく甘くて美味しいね」
と笑った。
「嘘つかないでください。かすってもいませんよ。頭突きしただけでしょ? ほら、ちゃんと味わってください」
悠里の口に、箱から出したトリュフチョコをつっこむ。閉じかけた悠里の唇と自分の指が一瞬接触した。生温かくてぬるりとした感覚。どきっとして、慌てて引っ込める。幸い、悠里には気づかれていないようだ。
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