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「健人さん」
悠里が喋るたびに、チョコレートの甘い香りがした。くらくらする。
「恋愛感情として好きだよ。大好き。俺と付き合ってください」
純粋で真っ直ぐな悠里の言葉が、心の奥底に突き刺さる。僕を見つめる悠里の澄んだ瞳に、「悠里だったら、僕のこの汚い感情もきれいに浄化してくれるかもしれない」と思わされる。
それは僕のエゴかもしれない。執着心に別の名前をつけて、きれいに言い換えたって、中身は変わらないだろう。でも、悠里。君と向き合うために、僕も覚悟を決めないといけないよね。どろどろとした執着心も、君にいじわるした時の興奮も、君に触れた時の恍惚感も、優越感も、嫉妬心も、独占欲も、何もかも全部ひっくるめて「恋愛感情」だと名付ける勇気を持たなければならない。引け目なんて感じずに、真っ直ぐな君とずっと一緒にいたいから。
「悠里」
名前を呼ぶと、顔を赤く染めて僕を見てくれる。それだけのことが、こんなにも愛おしい。
「僕も好きです。悠里に出会えて良かった」
悠里の目が大きく見開かれた。
「それって――」
悠里が何かを言い切ってしまう前に、僕は口を動かした。
「僕の恋人になってほしいです。でも、僕の『好き』は、君の『好き』よりもだいぶ重たいかもしれません。どうでしょう? お口に合うかどうか、味見してみてくれませんか」
答えを待たずに、悠里の唇を自分のそれで塞いだ。甘くてむせそうな悠里の味がした。
(『君はチョコレートみたいに』了)
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