花が種となるまで

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──六年後。 「はなちゃん!」 「日向君、久し振りだね」 来訪客は友菜とその子供──日向(ひなた)だった。玄関に入るなり飛びつこうとする彼を、母親は服を掴んで阻止をする。 「こーら! 花が優しいからって毎回そうしない!」 「ちがうよ。はなちゃんがだいすきなんだもん!」 「無闇やたらに引っ付こうとしてみ? 嫌われるぞ」 子供とは実に素直だ。友菜の言葉を信じた日向は愕然とし、瞳を潤ませて花を見上げる。 (可哀想だけど可愛いなあ……) しゃがんで視線を合わせると、日向は顔を俯かせた。 「そんなことで嫌いにならないよ」 「はなちゃんだいすき!」 勢いをそのまま突進に変えられ、うっ、となったのは致し方ない。 日向が寝てしまったので花は留守番係を任命された。すやすやと指しゃぶりして眠る彼をとんとん、とあやし続ける。すると薄ら目を開けた。夏の夕陽が眩しそうに。 「起きたんだね。お母さんはもうすぐ買い物から帰って来るよ。お父さんも夜には来れそうだって」 友菜は榊とすぐ別れ、新しい恋人とゴールインした。ラブラブで、デートをする時は日向を花が預かることもある。だから、大体のことは慣れていた。突然抱き着かれることも。 「おれ、ジュリアンさんよりいいおとこになるから」 頭を撫でようとした手が宙で止まり、小指と小指が絡んだ。 「やくそくしたんだ。はなちゃんをしあわせにするって、ゆめのなかで」 夕焼け色の瞳は吸い込まれそうなほど綺麗だった。心臓がトクンと跳ね、目頭が熱い。 「これからさき、ずっといっしょだ。ちゅーは、はなちゃんがOKしてくれてからね」 にぱっ、と咲かす笑顔が初恋の彼とそっくりだった。
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