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「寂しいときでも、困ったときでも、何にもなくてもいつでも呼べよって。言ったじゃん。――何で、来ないの」
香澄の充血した目から、瞬く間に涙が溢れて落ちた。頬に涙の跡が増えていく。
ああ、くそっ。だからか。
確かに言った。俺は香澄の全てを守りたかった。遠慮しがちな香澄が、いつでも俺を呼べるように、何度も言った。
香澄に呼ばれて、俺はここにいるんだ。
「香澄、いるよ!俺はここにいる!」
喉が焼けそうなくらい叫んでも、香澄には届かない。涙も拭いてあげられない。
「どうして、一人で遠くに行っちゃったの。どうして?春也……」
か細い声が胸に突き刺さる。
優しくて穏やかで、ちょっと気弱で。そんな香澄を俺がずっと守りたいと思っていたのに。畜生。
そのとき、チャイムが鳴った。
抜け殻のようだった香澄が、手の甲で涙を拭い、操られるように立ち上がる。
ドアを開けて迎え入れたのは、見覚えのある男だった。
「香澄ちゃん、お待たせ」
男は大きな荷物を抱えて、部屋に入ってきた。高そうな身なりの男だ。……そうだ、香澄と二人でいたとき、ショッピングセンターで会ったことがある。確か、香澄の会社の先輩だって……。
「電話くれて、嬉しかったよ。困ったときはいつでも呼んでくれていいからね」
頭を殴りつけられたような衝撃を受けた。
嘘だろ。
嘘だと言ってくれ。
香澄はそっと笑い、
「ありがとうございます。すみません、重かったでしょう?」
「香澄ちゃんのためだから。米10キロに、電球に、ビタミン剤、だったよね」
「スーパーに、電気屋さんに、ドラッグストアはしごさせちゃいましたよね」
申し訳なさそうに上目遣いで男を見上げている。やめてくれ。俺の前でそんな顔……。
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