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俺は死んだ。不慮の事故により。
*****
「……俺を呼べって、言ったじゃん……」
震える、消え入りそうな声。
抱えきれないほどの悲しみと、いくらかの腹立たしさとが混在している。
その声に呼ばれ、真っ暗な何もない――光すらない空間から引き寄せられた。
不意に意識が戻ったとき、目の前には虚ろな目の香澄がいた。結婚を約束した恋人の。
「香澄!」
思わず大声を出して抱き締めた……が、この手はすり抜け、香澄に触れられなかった。温もりすら感じられない。香澄の無気力な目も、変わらなかった。
そうか……俺はやっぱり死んだんだ。
ユウレイだかタマシイだか知らないが、俺はこうして意識はあるが、姿は見えないようだ。
自分がいる場所を見回す。ここは、慣れ親しんだ香澄の部屋だ。何度も二人で過ごした場所。一緒に座って、映画を楽しんだソファに今は香澄が一人で座っている。
死んだ俺よりも消えそうな顔で。
こんな香澄を見るのは辛い。だが、俺の意識はここから動けない。
なぜだろうと思ったとき、香澄が小さく口を開いた。
「春也、いつでも呼べって、言ったのに」
呟かれた自分の名前に、俺は香澄の顔を見た。
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