33人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
男は満面の笑みで運んできた買い物袋を覗き込み、
「大したことないよ、さ、電球はどこが切れたの?」
香澄は可愛らしく小首を傾げ、
「ここに来るとき、車、どこに置きました?」
と尋ねた。男は包みを探る手を止め、
「あぁ、ここにはタクシーで来たから……」
「どうしてですか?ドライブに誘ってくれた、自慢の車は?」
「車、は、えっと、買い物して、家に置いてきたんだよね……」
「10キロのお米を抱えて?すぐそこに駐車場があるのに?」
「……コインパーキングだよね?置けなかったら、困るなと思って……」
急に男はしどろもどろになった。
「車が使えない理由があるんじゃないですか?」
俺が聞いたこともないような、冷え切った、鋭い声だった。
香澄は声と同じ、鬼気迫る目線で男を見下ろしている。
「……いや、別に……たまたま点検に出してるだけで」
「たった今、家に置いてきたって言いましたよね。どっちですか」
明らかに男は青ざめ、視線が泳ぎだした。
最初のコメントを投稿しよう!