大熊

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「俺が兄様の番なら良かったのに……」  レノはエイデンも自分と同じα性でも、何か特別な繋がりがあると信じて疑わなかった。エイデンの目が見えなくなり、今まで感じていたエイデンのオーラのような物が一瞬弱まったのを感じ、もしかしたら体質が変化するのではないかと期待した。後天的に性が変わることも稀にある。もしそれならば愛しい兄と番う事が出来るかもと、その時が来るのを心待ちにしていた。 「兄様……お加減はどう? 苦しい?」  温くなってしまった氷嚢を変えながらレノは眠っているエイデンに小さく声をかける。エイデンが目が見えなくなってしばらく経ち、本当はレノは少しずつ気がついていた。  目が見えなくなった理由──  これは自らの力で外界をシャットダウンしているという事。エイデンに自覚はない。エイデンの体に起きた僅かな変化にレノだけが気がついていた。これがαからΩへの性の変化だったのならどんなに良かったか……それなら真っ先に自分が番を申し入れ、きっとエイデンもそれを受け入れてくれただろうに。  でもそれは叶わない事だとわかっている。  エイデンは運命の番を迎える準備をしていた。本人の自覚無しに、体が勝手にその準備を始めていた。運命の番である人物が段々と近付いてくるのを待ちながら、余計な誘惑に惑わされないよう自ら視界を閉ざしてしまった。普通はそんなことはあり得ない。そんな話は聞いた事がない。それでもレノは自分の直感を信じてそれを見守っていた。現にミケルが屋敷に来た日、エイデンに光が戻り、未だ見ぬ相手に……素性も知らない筈のその相手にエイデンは心を寄せた。  ディエゴへの挨拶ついでにミケルに会ったが、そのΩの性はあまりに弱々しく、レノでさえ見極める事が難しかった。でもレノがミケルに近付いた事でエイデンは体調を崩した。それは自分以外のαが邪な気を持って番に近付いたからなのだと思う。 「兄様、俺は辛いよ…… 兄様はどこまでわかってるの? 俺はもう必要ない?」  眠りから覚めないエイデンを見つめ、レノは自分の特異な能力を嘆いた。  最愛の兄がこんな状態になっているのは自分のせいだった。レノがミケルに近付いたから……  自分以外にエイデンを取られてしまうのが堪らなく嫌だ。それでもエイデンの幸せを願わずにはいられない。  目を覚まさないエイデンの頬にそっと触れる。「兄様……」と零したその時、エイデンはそれに答えるように「ミケル」と小さく呟いた。 「……兄様なら、運命の番なんかいなくたって大丈夫」  エイデンの零した言葉にカッとなったレノは、そのまま屋敷を飛び出し庭園に走った。
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