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車は国道に出て、西へと進んでいく。これでもかと言うぐらい青信号の連続で、渋滞もなく、すいすい泳ぐように走れて爽快だ。
「白状するも何も、奥さんとは寝てませんって。仮に、本当に、面川さんの子じゃないとすれば、俺以外の、誰かの子って可能性はありますけど……、そういう行為をしているんでしたら、面川さんの子の可能性が極めて高いと思いますけどね」
右折もすんなり渡れた。いつもこの道は右折渋滞がひどいのに、こんな経験は初めてだ。と言うか、あまりにも車が少ない。はて、今日は祝日だったか。
「与沢さんは、子どもが好きか」
問われたので、正直に答えた。
「他人の子は好きじゃないですね。自分の子だったら可愛いと思いますけど」
ふむ、と旦那は息をつき、
「それなら問題ない。早千代の子を引き取ってくれ。あいつは信用ならない。昔、おれに嘘をついた。それ以来、言葉の一つ一つに嘘が隠れている気がして、どうにも信じきれずにいる。好き好んで疑いたいわけじゃないが、早千代には疑う要素が多分にあるんだ」
彼は上着のポケットから禁煙用のパイプを取り出し、吸い口を噛むように吸い始めた。
「けっこう重大な感じの嘘だったんですか?」
話の矛先がこちらに向かないように訊いた。旦那は苛立ちながら話し出す。
「ああ。人によっては大したことじゃないと言うだろうが、おれにとっては重大だった。早千代にはマエがあった。いや、前科という意味じゃない。離婚歴があるということだ。出会ったとき、確かに初婚だと言ったんだ。それが結婚して半年も経たないうちに、実はバツイチだと言った。だが、子どもはおらず、親族もそれを知らない。話を聞いていくと、事実婚だったと言った。もう何を信じていいか分からなくなった。とは言え、戸籍は汚れていなかった。どうやら婚姻届を書いたが、相手の男が提出していなかったそうだ。どうであれ、男と暮らしていた数年はあったらしい」
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