お隣さんを乗せて

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 真っ直ぐ伸びた道路が、低いビルのあいだを抜けていく。車は一定の速度を保ったままで目的地に向かって急ぐ。フロントガラスの上の方に、小さな飛行機がぼやけて見えた。俺は信号を左折し、三分程度は短縮できるであろう抜け道を選んだ。 「事実婚だとしても、戸籍上は初婚でしょう。奥さんは嘘をついてないと思いますよ。男と暮らしていたって、子どももいなくて戸籍もきれいだったら問題ないでしょう。同棲なんて、そこらへんを歩いている人だって普通にやったことありますよ」  俺の妹も、彼氏と同棲して八年が経つ。結婚しちゃえよと親心で言うが、結婚を前提にしない関係だからこそ上手くいくと教えられたことがある。 「確かに初婚は初婚だが、事実婚をしていたなら話は別だ。早千代の中で、そのとき一番大事だった、かけがえのない家族同然の男がいた。戸籍上でおれが初めての男でも、あいつの中には忘れられない一等大事な男が残っている。おれはいつまでも過去に負け続け、いつまでも早千代の核になりきれない。そこに虚しさを感じるのは当然だ。しかも、今、早千代はあんたに惚れている。おれは過去も現在も誰かに負けているじゃないか」  何やら加熱してきたようなので、雑誌の受け売りのようなことを言っておく。 「誰だって過去に好きな人ぐらいありますよ。面川さんだって、奥さんの前に付き合った人はいたでしょう。そこを奥さんに問い詰められたら、返事に困ると思いませんか」  途端、旦那の表情が険しくなった。 「おれはな、別にあいつの過去に嫉妬してるわけじゃないんだ。そりゃあ過去に惚れた男ぐらいあるだろう。だが今、あいつはあんたに惚れてる。過去の男が女を妊娠させられるか? 今の男こそ、女を妊娠させられるんだ。早千代は妊娠したと言ったとき、まったく幸せそうじゃなかった。つまり、そこに後ろめたさがあったってことだ。こうなると、腹の子がおれの子だという根拠が崩れるだろう。そうは思わないか」
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