お隣さんを乗せて

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 抜け道は信号も少なく、それらすべてが青だった。俺はアクセルを踏み込む。間もなく訪れる交差点を左折すれば、またしばらく直進できる。本格的に車が増える前に、空港への流れに乗っておきたい。 「面川さん、本当、真面目に断っておきますけど、俺はあなたの奥さんと何ら関係持ってないですよ。奥さんが俺に惚れてるって言いますが、少し立ち話をしたり、バレンタインに義理チョコもらったりしたぐらいじゃないですか。二人で出かけてもいないし、部屋に上げたこともありません。あなたの留守中にお宅に上がったこともない。あと残すは車の中でってことになりますけど、この車は俺の商売道具ですから、淫らなことには使いませんよ。そうしたらどこで関係持つんです? こう言っちゃ悪いですが、奥さんが幸せそうじゃなかったのって、面川さんにも責任があるんじゃないですかね」  ハンドルを切って、主要道路に出た。まったく気味が悪いぐらい、ブレーキを踏むことがない。海外のお偉いさんを迎えたときみたいに、信号が操作されていると勘違いしてしまう。こんな経験は二度とないだろうが、今の俺も奥さん同様に幸せな気分じゃない。後ろに座る御仁が常に睨んでくるからだ。 「聞き捨てならんな。おれに何の責任があると言うんだ。おれは嘘をつかれ、浮気もされている被害者だ。それでも夫婦の生活を守っている。あいつに怒鳴ったことは一度だってない。それでどうしておれも悪いとなるんだ」  旦那の気配が毛羽立ってきた。俺は努めて感情を込めずに意見を述べた。 「面川さん、奥さんのことを疑うばかりで信じてないでしょう。はっきり言って、俺との浮気は濡れ衣もいいとこです。会えば挨拶するし、挨拶すれば笑うこともあります。だけど、だから男女の関係があるって飛躍し過ぎですよ。そうやって何でも疑っているから、奥さんもまた疑われると思って幸せそうにできなかったんじゃないですかね。夫婦の営みをしているんでしたら、素直に受け止めて、面川さんこそ喜んでみせた方がいいと思いますよ。まあ、疑う気持ちもよく分かりますけど、疑うエネルギーって本当に無駄ですよ。そのエネルギーの半分ぐらい信じることに向けてあげたら、夫婦関係はもっと上手くいくと思いますけどねえ」  すると旦那は、不満そうに口を尖らせた。 「おれは生来、人を信じることが苦手だった。女にはいつも辛い思いをさせられてきた。だからなかなか結婚に踏み切れなかった」  何となく、彼の気配が弱くなった。少しは胸に思うところがあるのかも知れない。
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