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★☆
(亜紀と一緒に暮らせたら……楽しかっただろうな……)
妹と一緒に、一人暮らしの話で盛り上がった。一緒に暮らしたら一人暮らしじゃないけど、なんて笑ったっけ。
あの時が一番、楽しかった――
キッチンから湯が沸いたと、やかんが音を鳴らす。
急いでコンロの火を止めに、キッチンに向かう。つまみを捻り、火を消す。やかんの甲高い音も徐々に小さくなっていく。
ふと、私が大学三年だった頃に起きた火事を思い出す。
なぜ、キッチンに私の衣服が大量に置いてあったのか。
なぜ、妹は家にいたのか。
なぜ、私だけが生き残ったのか――
火事の後、毎日のように母から電話がかかってくる。
(まただ……)
着信音を鳴らすスマホの画面には、『お母さん』と表示されている。
死んでもまだ、お母さんは私を心配している。
私を、縛り付ける――
私はお母さんの言うことを訊いて生きてきた。だから一人暮らしが出来ているのか心配してくれたのかもしれない。
「もしもし……」
『もしもし、由美ちゃん? 元気?』
生前と変わらない声。懐かしくて――とても苦手な声。
あの声で何か指示をされると、逆らうことが出来ない。それは私が弱かったから……。
「お母さん、私ね……」
大学を卒業して、社会人になった今も電話が続く。
もう電話をしなくていいんだよ、そう言おうと思っても言えなかった。勇気を出して、言おうとすると「何言ってるの、由美ちゃんはママがいないと何も出来ないんだから言うことを訊いていればいいのよ」なんて言われるに決まってる。それ以
上私の話を訊いてくれない。
お母さんが死んでも私は、お母さんの言いなりだ。
仕事は何をしてるの? 服は何を着ているの? 何を食べているの?
質問攻めの毎日だった。
この仕事に就きなさい。この服を着なさい。これを食べなさい。
あの時と同じように、毎日指示をされる。
『訊いてるの? 由美ちゃん』
『――えちゃん……』
「……亜紀……?」
いつもと違う電話。
お母さんの声だけじゃなくて、一緒に亡くなった妹の声がした。私と違って、母に反発をした強い子。そして母に殴られても、服従しない強い心の持ち主。
私の自慢の妹だった。
「ねえ、亜紀でしょ!? 亜紀……」
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