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★☆
スマホの着信音が鳴り響き、ビクリと肩を震わせる。
画面を見ると、電話帳に登録してある『お母さん』の文字が表示されていた。昔の癖で、つい出てしまう。
『もしもし、由美ちゃん? 元気?』
お母さんの優しい声。
『風邪とかひいてない? お仕事は大丈夫?』
私を心配して、自分の言う通りに動かそうとする声音は、何も変わってない。
『――亜紀――』
電話の奥で何か訊こえる。よく訊こえないが、妹の名前だけ辛うじて分かった。また妹が、お母さんに何か言ったのかもしれない。反抗期なのか、お母さんと衝突することが多かった。
私はそれが、羨ましい。私には出来ないから、それをやる妹が格好良く見えた。
妹みたいになれたら、良かったのに――
通話が切れて、部屋に静寂が戻る。
家を出て、何年になるだろうか。私はまだ、お母さんから逃げられない――
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