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親離れ出来ない姉
★☆
あれは姉が、大学何年の時だっただろう。
母が姉のことを甲斐甲斐しく世話して、可愛がっていた。高校を卒業したら家を出て、大学だろうが専門学校だろうが、好きに生きると決めた。
姉のようにはならない――そう心に誓った。
「どうして! あんたは! お姉ちゃんと! 違うの!」
母は文句を言いながら、何度も私を殴る。姉との電話を邪魔した罰で。
部屋着でキャミソールと短パン姿だったことを後悔した。もう少し厚手の……もこもこのお気に入りのパーカー。どんなに熱くても、着ておけば良かった。
こんな恰好で殴られたら痛いし、見られたら少し恥ずかしい。反抗期にも恥じらいと言うものはある。
「あんたがいるから! お姉ちゃんがいなくなったのよ! どうして!」
何度も何度も殴る。
手が痛くなったら蹴る。私の顔や腕、足にお腹に痣が出来ても母は、やめてくれない。気が済むまで、落ち着くまで続けた。
「あんたがいけば良かったのに!」
高校を卒業するまで、あと何日――頭の中でカウントダウンをする。それが唯一の救いで、がんばれる理由。だから母からの暴力にも耐えられる――はずだった。
母の暴力が激しさを増したのは、姉が二一歳。大学三年を迎えた時、姉は就職をどうしようか悩んでいた。そこに追い打ちをかけるように、母が有名企業のリクルート情報を渡した。
姉は母の言うことには絶対だった。だから興味のない企業でも、ただ「有名だから」という理由で受けていた。
日に日に姉は、疲労のせいか痩せこけていった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
当時、高校に入学したばかりの私は、母は嫌いでも姉は嫌いじゃなかった。母の言うことしか訊かない姉は、嫌いだったけど……。
「うん……心配してくれてありがとう」
「別に心配なんて……」
照れくさくなって、そっぽを向く。姉は微笑み、手招きをしてくれる。
「何?」
「ちょっと来て」
なんだろう、と思い、私は姉の部屋に足を踏み入れた。
(お姉ちゃんの部屋、久し振りだ……)
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