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★☆
(なんて狡いんだろ……)
妹を理由に、家を出なかった。
ずっとお母さんの言うことを訊いてきたせいか、自分で決められない。そんな私が、一人で生きていけるんだろうか。怖くて、不安で、家という箱から卒業出来なかった。
妹が殴られてるのを知って、私は必死に勉強をした。お母さんの理想の娘になれば、お母さんは私を見る。そうすれば、妹を殴ったりしない。
前に私が大学に残って勉強をして、帰りが遅くなった時があった。
「ただいま――」
おかえり、の言葉の代わりに乾いた……何かが破裂するような音が訊こえてきた。身体から血の気が引き、呼吸が止まる。
鞄を玄関に投げ、靴を脱ぎ捨てた。急いで音のする方へと走る。徐々に音が大きくなっていく。
「お母さん!!」
リビングのドアを勢いよく開けると、お母さんが亜紀を叩いていた。
「あら、おかえりなさい。どうしたの? いつもより遅かったじゃない」
「大学で……少し勉強してたの……」
「そう。なーんだ……てっきり亜紀と喧嘩したのかと思ったわ。貴方達、よく喧嘩してたでしょ?」
いつの話? 亜紀が小学校の受験に失敗してから、私達は口を利いてない。
「由美ちゃんは優しいでしょう? いつも亜紀に謝っていたから……お母さん、家出したのかと思っちゃった」
殴られて顔が真っ赤になった妹は、私を睨むように見上げていた。憎悪の眼を、忘れられない。だからだろうか、
「お姉ちゃん、痩せたね」
独り言のように呟きでさえ、嬉しかった。
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