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家族の絆
★☆
姉が大学に行っている間、高校を早退した私は、静かに帰って来た。
母は専業主婦なので、家にいる。顔を合わせたくないので、コッソリと部屋に戻ろうとすると、キッチンから何かを燃やしているような、焦げた臭いがした。
(何か焼いてるの?)
魚でも焦がしたのか、そう思いリビングのドアを静かに開ける。
母がコンロの前に立ち、姉の通帳を燃やしていた。
「お母さん……何してるの?」
「ああ、あんたか……」
チラリとこちらを見て、吐き捨てるように言う。すぐにコンロの火に視線を戻して、今度はキャッシュカードを燃やす。
母の足元には、姉の身分証や服が乱暴に置かれていた。
「何、してるの……」
「こんなのがあるから、由美ちゃんが出て行こうとするのよ。あの子は私の側にいないとダメなのに……」
「やめてよ!」
慌てて、キャッシュカードを奪い取る。幸いにも端が少し溶けたくらいで済んだ。慌てて身分証や服を拾う。
「返しなさい!」
奇声を上げて、私を殴りつける。
守らないと、姉が家を出ていけない。ずっとこの家に――母に縛り付けられる。
(そんなのダメ!)
「返しなさい!!」
どれだけ顔やお腹を殴られても、蹴られても、絶対に渡さない。
「役立たず! 疫病神! あんたのせいでお姉ちゃんがいなくなるのよ! あんたがいなくなればいいのに!」
母は私から身分証や服を取り返すのに必死になって、気付いていない。
殴る音に合わせて揺れる火が、少しずつ大きくなっていることに。その火が、母の服やコンロの近くに置いてあった衣類に、燃え移ったことに――
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