ねこのふみふみ

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「神さま仏さま、私にこの世で一番可愛いものをください」  毎日一生懸命お祈りしていたら、とうとう神さまと仏さまが現れた。 「一番かわいいものじゃと?」  神さまは驚いて白い髭をびくりと震わせた。 「かわいさの基準は人それぞれに違うものですよ」  仏さまも困り顔で眉をひそめた。 「じゃあお二人が思う、この世で一番かわいいものをください」  私がそうお願いすると、仕方なさそうに神さまと仏さまが相談を始めた。  この世で一番かわいいものとは何か。  けがれを知らない幼な子の微笑み。  母ヒツジに見守られてすやすや眠る子ヒツジたち。  野辺に咲くひなぎくの花。  次々に神さまと仏さまが思うかわいいものたちが挙げられた。しかし、一方が提案すればもう一方が「いいや、それではまだまだ……」などと言うのでなかなか決まらなかった。  長々と討議が続き、時には「ポムポムプリン」とか「橋本環奈」などといった世俗的な単語も聞こえたが、それはひとまず聞かなかったことにしよう。    七日七晩の討議を終え、ついに神さまと仏さまはおごそかに宣言した。 「この世で最もかわいいもの、それは『ねこのふみふみ』である」 「よって、そなたに『ねこのふみふみ』をさずけましょう」  それを聞き終えると同時に目の前がぐるぐるとなり、気がつけば自分の部屋にいた。  ねこのふみふみか。確かにそれはかわいいぞ。  ベッドの方に目をやると、さっそくふみふみの気配がした。近づいてよく見ると、確かに毛布がふみ、ふみ、ふみ、ふみ……と一定のリズムでふみふみされている。  落ち着いて精神を集中させると、一生懸命グーパーしながらふみふみする猫の手が見えた。そのまま瞬きもせず一心に見入っているうちに、猫の開いた指の形やちょっと出た爪の先っちょ、パーからグー、グーからパーにになる時にちらちらと見える肉球などのかわいいパーツの細部がだんだんとはっきりイメージできるようになった。  いいぞ。ふみふみ、もっとやれ。  心の中で声援を送る。猫のふみふみは母猫を思い出して子猫気分になっている時にするという。だから声をかけたり触ろうとしたりして気を散らせずに、そっと見守ってやるのがよい。  ふみ、ふみ、ふみ、ふみ。ふみ、ふみ、ふみ、ふみ。  もう何も怖くない、私はこの世で一番かわいい「ねこのふみふみ」を手に入れたのだから。
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