3.月曜日のモスコミュール

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 「えー! 鷲橋さん、なんですか、その可愛いオムライスは?」  案の定、私の普段と違うお昼ご飯に丸山さんが食いついてきた。門倉さんがいないのは助かった。二人相手はしんどい。彼女は次のブロックの休憩らしい。  私達は仕事の都合上、部署の全員が一斉に休憩にいけない。今回ばかりは業務内容に助けられた。  そもそも本当は昼ご飯くらいは一人になりたいのだが、周りには食べる場所が少なく、その数少ないファミレスや喫茶店も上司達がよく利用しているので気が休まらない。それなら丸山さんと休憩室で食べてるほうがまだ楽だ。   「なんか、いつも同じの飽きちゃってね」  私は、くたびれたお局がたまに見せる弱い一面、みたいな表情で言っていた。 「本当ですか〜? たしかにいつも唐揚げ弁当かカツ丼でしたもんね。でも、もしかして鷲橋さん、こっそり彼ピッピ出来たんじゃないですか? それで食事気をつけてるとか」  失礼なやつだ。私は気になる人の前でたじろぐことはあっても、彼氏ができたからといって食生活を変えるようなことだけはしない。彼氏ができたら、友達付き合いが悪くなるとか、彼氏の話しかしなくなるとか、そのような友人を心で軽蔑して生きてきたのが私だ。  そしてもれなく、そのような人とは疎遠になった。  結果、残ったのがヨリコだけだった。なのに今、彼女から連絡が返ってこない。こんなにつらいことがあるだろうか。 「ちょっと、鷲橋さん聞いてます? もしかしてノーコメントってことは、やっぱり彼ピッピが」 「ちょっと待って。その彼ピッピって何? 彼氏のこと?」    分かっていたが、ムカついたのであえて訊いてやった。 「そうに決まってるじゃないですか。やっぱり金曜もジム先帰ったのは、彼ピッピと会ってたんですか?」 「違うわよ。できてないわよ」  むしろ、貴重な友人との関係が終わりかけてるのよ。まぁ、私が悪いんだけど。 「え! じゃあ今日軽いパーティーあるんで行きましょうよ〜。格好いい男来るかもですよ。門倉さんが誘ってくれたんです」  「パーティー?」  私の辞書からいつしか消えてしまっていた言葉だった。 「パーティーですよ、パーティー。でも、そんなガッツリのやつじゃないらしいですよ。人数もそんなに多くなさそうですし、一応お酒と食事も出る立食みたいな。いつも誘ってくれてたんですけど、中々行けなくて。だから私も今日初めて行くんです」  そもそもガッツリのパーティーとはどういうものなんだ。男は全員ジェルで黒光りしている、ガテン系の体型をしたIT企業の社長みたいな人ばかりなのだろうか。じゃあ、軽いパーティーは? もやしっ子がカルアミルク飲んでるのか? 白ネギ男がファジーネーブルか? 「あれ? 悩んでます? 行きましょうよ!」  普段なら二秒で断る案件だが、今日の私は違った。進藤君とヨリコの件で、少し投げやりになっていた。 「まぁ、ガッツリ系じゃなかったら行ってもいいけど」 「え! ホントですか! 行きますか?」  丸山さんは自分で誘っておいてビックリしていた。一応声はかけましたよ、という名目のために私を誘っただけなのだろう。今後、門倉さんとのパーティーのことを喋るとき、私も同席してるときに気まずくならないように。  しかし、自分でも、行くと言った自分にビックリした。 「じゃあ鷲橋さんも参加って、門倉さんにライン送っときますね。当日参加全然オッケイって言ってたので大丈夫だと思いますから」 「うん」  空返事をして、パクリとオムライスおむすびを三口で食べ終えた。お腹が全く膨れていない。  だからだろうか。不思議と眠気は全然こなかった。ただ食べ慣れないエクレアのクリームがずっと舌に残っている奇妙な感覚があった。
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