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1.金曜日のカフェ・モカ
なーにが“映え”よ、なにが。
ただの着色料の権化じゃないの。
さっきから、あなた達がスタジオアリスのカメラマンみたく全角度から撮ってる目の前の映えた飲み物、いやリキュールとやらは。 そう。人知を超えたピンク色と黄色。
で、そんな身体に悪そうなもの食べるくせに、普段はオートミールだか、オーガニックだか知らないけどさぁ。両方、オーから始めないでくれる? ややこしい。どう考えても、オートバックスとかのほうが先だから。先輩だから。つまりこの三人の中の私よ。
くっだらない。
だいたい、この子ら、たまにこういう身体に悪いもの爆食いするために、普段は身体にいいもの食べてますー、とか言ってたけど、それってただの情緒不安定ですから。いや、食緒不安定と言ったほうがいいか。
で、どっちの自分もご丁寧にSNSに載せて、どう思われたいんだよ。食緒不安定と思われたいのか? 「私は地雷女ですよー」って。信号がもうすぐありますよ、って予告する黄色だけの信号なの? それなら慈善事業だよ。偉いよ。
でもあなた達、あの信号の黄色は道で見ても写真撮らないんでしょ。あれこそ、映えさせてみせてよ。お得意の編集技術とやらでねぇ。丸山さんに門倉さんよ。
「あれ? 蘭子先輩、前髪切ったんですか〜? 可愛いですね〜」
「あ、ホントだ〜。私も気付いてたんですけど、言うか迷ってたんですよ〜」
うるさい。前髪をちょっと切っただけなのに、褒めてきやがって。思ってもないくせに。何が目的だ? 自分が切ったとき、褒めてほしいからか? だから現実世界でも心ない“イイね!”をしてるの?
そもそもさっき丸山さん、最初「ホントだ〜」って前髪切ったの気付いてなかったリアクションだったくせに「言うか迷ってた」って、言ってること矛盾してるじゃない。どれだけ適当に喋ってるんだよ。そのうち、人間のほうがAIより心なくなるんじゃないの、本当に。
先が思いやられるわ。って言っても、三人の中で最年少の丸山さんとも、二歳しか違わないんだけどね、私。
そういえば、丸山さんよく言ってきたな。
「えー、私と鷲橋先輩二つ違いってことは、私が一年のとき先輩三年だったってことですよね?」って。
そりゃ、そうだろ。
あんたが産まれたてほやほやのとき、私は二歳だし、あんたが九十八歳までのうのうと生き延びたとき、私はめでたく百歳だよ。百寿だよ。
そのときも褒めてくれるの?
“イイわね”になってるのか? そのころには。
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