Episode1:最悪の遭遇

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Episode1:最悪の遭遇

 本棚の中から今日の一冊を選ぶ。これは毎日の日課のようなものだった。  姉の影響をもろに受け、少女漫画も読んだし、間違えて見たBL漫画は俺に大きな衝撃を与えた。どっぷりハマってしまってからは自ら書店でも買うようになった。  実は一連の流れは全て姉の思惑通りだと聞かされたのはつい最近だった。腐男子にさせたかった姉の執念勝ちというべきか。  家ではBLに囲まれた生活をしている俺でも、さすがに学校では隠して生活している。  そんな環境でも、昼休みの屋上は絶好の隠れ場所なのだ。  カバンの中にBL漫画を忍ばせる。 「いってきます」 「行ってらっしゃいー」  姉の陽気な声が返ってきた。両親はすでに離婚し、残った母も先日病気で亡くなった。ちいさなアパートで姉と二人暮しだ。  *  学校に着くと、クラス発表の紙が張り出されていた。俺のクラスはと…A組か。自分以外もざっとメンバーを確信する。  お、和美がいる。 「学、おはよう」  ちょうどよく和美の声がした。 「和美!また同じクラスだな。これでぼっち飯にならなくて安心だな」 「そうだな」  軽く肩をすくめただけで同意してきた。 「特進クラスはクラス替えがないらしい。俺も特進にすれば良かった」  和美の言葉を聞き流し、校舎に行くよう促した。新しいクラス、新しいメンバー何もかも新鮮だな。楽しくなるといいけど。 「おい、見ろ。あれが今年の生徒会だ。俺はあの人嫌いだ」  和美に指摘されて、廊下を歩く生徒会メンバーを見て圧倒される。先頭を歩く会長は目に残る美形だし、後ろからついてくる他のメンバーも整った人たちばかりだ。そして、すぐに思った。この人たちとは生涯、近づく縁もないだろうと。 「女子の人気すごいな。ここの生徒会はアイドルみたいだな。俺たち凡人には縁のないことだけど」  その会話はそれでおわったが、すぐに縁が出来るなんて俺たちは想像もつかない。  始業式が終わり、早くも解散になった。  俺は和美とは帰らず、一人で屋上まで来ていた。  正直帰っても、姉も学校だしやることがない。  屋上の死角に座り、弁当を広げて食べながら漫画を読む。  身近にBLみたいな展開起きないものか。あいにく、ここは共学だったから望みは薄いだろう。  弁当も食べてしまい、日当たりの良さに眠くなってきた。少しだけ…と漫画を片手に眠ってしまったのだ。  唐突に目が覚めたのは自分のクシャミだった。  日が落ちて、寒くなっている。 「うっ…さむっ」  肩に手を回し震える仕草をして、違和感に気づく。肩にジャージの上着が掛けられていた。 「え、これ、誰の?」  慌てて肩から上着を取り、名前を確認した。  刺繍された名前には『秋山』と書いてあった。  サイズはS…。ん?本当に誰?俺の知り合いに秋山なんていないような…。 「生徒会のメンバーの名前、聞いてなかった証拠だね」  不意に声が降ってきて、驚く。上を見上げて、そこに人がいることを初めて知る。給水タンクの上からハシゴを使ってその人は降りてきた。 「それ、僕の。寒そうだったから掛けたんだよ。生徒会書記、秋山薫。覚えてね。ほら、返して」  俺からジャージを奪い取るように持っていくと、制服のブラウスと袖のないセーターを着ている上からジャージを羽織った。  俺は関わることの無いと思っていたばかりに生徒会メンバーの名前なんて会長以外は記憶になかったことを後悔した。  そして、どうして関わることなってしまったのか分からず混乱していた。 「あの、わざわざありがとうございました…」  本当はほっといてくれた方が良かった。 「それはいいよ。それより、僕こっちの方が気になるな」  可愛く微笑んでいるが、その言葉に含まれた好奇心が俺には怖かった。こういうタイプの子ほど、裏があると怖いことを漫画の知識で知っていた。  そこで、ようやく漫画を持って寝てしまったことを思い出したが、漫画がなかった。 「え?嘘だろ!?ない!」  まさか!俺は薫の方をキッと睨むように見る。 「そんな顔しないでよ、これでしょ?」  漫画をヒラヒラさせて持っている。表紙が明らかにBLだ。  み、見られた…。 「み、見た?」 「もちろんっ!全部読んだよ」 「なっ!読んだのか!どんな内容か表紙だけで分かるのに!なんで?」   俺が尚も焦って混乱し変な汗が溢れるが、秋山は不思議そうに顔を(かし)げた。 「面白かったよ、僕は嫌いじゃない。他のも見せてよ」  は…?まじでか。 「い、いいけど…俺が腐男子だって誰にも言わないでくれよ」 「腐男子?」 「そういうの、好きな男のことだよ!BL好きな女子を腐女子って言うだろ」 「あぁ、なるほど!ふーん、どうしようかな…内緒にしてあげてもいいよ。その代わり…その漫画みたいなこと試させてよ」  青天の霹靂、寝耳に水。  天国のお母さん、姉ちゃん、俺はとんでもない人に目を付けられました。  完。
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