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「悪い、遅くなっちまって。  後ろに乗ってもいいか?」 俺はロックを解除し、劉を乗せる。 「町中が随分と騒がしくなってきてんぞ!」 「どうして楊は自殺を?」 「愛憎劇ってヤツだよ。  ボスはしちゃいけねぇ事をやっちまった。  ただ、それだけさ」 「だが・・・俺と彼を逃がしてくれた」 「ヤツにも少しは人間らしいところが残ってたんだろ?」 「劉・・相田・・・いや、アイが殺された」 「なんだって?  何でそんな事になっちまったんだ!  美味い酒がもう飲めないじゃな・・・・・」 劉の言葉を最後まで聞き取る前に冷たい銃口を首筋に感じ 俺はバックミラーに視線を移す。 そこに映る劉は不敵な笑みを浮かべていた。 「劉!まさか・・・あんたに裏切られるとは!!」 「可愛い恋人の口からそんな事云われても嬉しいだけだ。  車を動かせ!」 「どこへ行くんだ?」 「俺の言う通り行けばいい。  大輝、お前はジッとしてろよ。  さもないと、こいつの頭がブッ飛ぶからな・・・・  とりあえず、九龍の方へ行け」 ・・・今、何て言った? 大輝・・・? 劉はウォンが大輝だと知っているの・・・か? ・・・一番信用していた劉・・・ こんな事になるなら大輝を助けた時に 領事館へでも飛び込めば良かった。 「あんたは新議安や和勝和、両方にコネがあったのか?」 「は?コネ?  そんなもん俺には必要ないさ。  俺は三合会の代表だからな」 ・・・三合会・・・ まさか14Kのボスなのか・・・劉が? 「代表のあんたがどうして九龍城になんか住んでるんだ?」 「俺が代表なのを知ってんのは長老たちとトップの人間だけだ。  あとの奴等は知らねぇよ。  俺は金なんかに興味はねぇし、遊ぶには地位なんて邪魔なだけだろ?」 「じゃ、なんで代表なんかやってる?」 「そうだな・・・  マフィアを自分が動かしてるって云う自己満足か・・・  それとも、優越感に浸りたいだけか・・・・・そ  んなもん俺にもわかんねぇや。  ま、遊びにはそれなりの犠牲もつき物だがな・・・」 「・・・アイもあんたの差し金なのか?」 「いや、アイをやっちまうなんてのは俺のシナリオには入ってなかった。  これだけは言っておく。  お前が香港まで弟を探しに来た事で死ななくてもいい奴らが死んでいった。  それだけは覚えておけ!」 ・・・相田、こんな事になって本当にすまない・・・ 「そこを曲がれ!  あの黒い倉庫の中に入るんだ」 云われた通り倉庫前に車を着ける。 倉庫は随分と古い撮影所のようだった。 車から降りるとボディチェックをされ拳銃を取られた。 「こんなもんを忍ばせてるとはな・・・  案外、お前も出来る男だったんだな」 「これであんたを殺せなくて相田も残念がってるよ」 足元がふら付く大輝を抱えるようにして倉庫の内に進むと あの時の男がいた。 「偉・・霆・・・」 「ウォン、生きてたのか!」 偉霆と呼ばれる新議安のボスは大輝を抱き締めたが 直ぐに劉によって引き離された。 「これで役者が揃ったな。  さぁ、これからどうするかな・・・」 奥から一人の男がゆっくりと歩いてくる。 偉霆はその男を『長老』と呼んだ。 その男は偉霆の前に立つと 「お前がバカをするから、和勝和も困ってたぞ!」 と怒鳴り 「申し訳ありません」 「ウォンを始末しろと言ったのに家衛まで私の云う事を聞かず・・・  お前らは一体何を考えてるんだ?  こんなガキ一人に振り回されやがって!  お前が出来ないなら私がカタをつけてやろうか?」 「いいえ・・・お手を煩わせるような事はさせません。  全責任は私にあります。  私がこの手で!!」 そう言い放つと劉から銃を受け取り大輝に銃口を向けた。 まさか・・・!! 本気で撃つ気か?! 「やめ・・・・!」 「親父、やめろ!  やめてくれ!!」 俺の声は偉霆の叫び声に掻き消された。 それと同時に2発の銃声音が建物中に響き 大輝の血飛沫が俺の顔にかかる・・・・。 俺は涼に智を守ると誓ったのに・・・! 涼・・・・すまない。 コイツらには人情だの、どうのこうのは通じない。 ああ、そうか・・・・・・そうだった。 お前は知ってるよな? それでお前は死んだんだから・・・・。 ・・・涼・・・ 大輝も相田も俺のせいで殺されちまった。 涼、許してくれ。 倒れた大輝を抱きしめる偉霆を見ながら 「さて、お前はどうされたい?  なあ翔、元恋人の俺に・・・俺にやられたいよな?」 そう言って笑う劉にそれでも助けてくれるんじゃないかと 期待してる俺は大馬鹿野郎か? ・・・初めから仕組まれてる事だったんだ・・・ まだまだ、俺も甘いな・・・。 劉の本性など全く分からなかった。 俺は覚悟を決めて劉に話しかける。 「元恋人なのか?  寂しいな・・・」 「残念ながら、新しいのを見つけちまったからな」 「それは妬けるな」 「お前は俺の楽しみを奪った。  双子だとは聞いていたが・・・  涼とうり二つの顔して現れた時は流石に驚いたがな」 「弟の死は、お前の差し金なのか?  家衛を使って・・・」 俺の言葉に狂ったように笑う劉。 「今頃分かったのか。  ホントにお前って奴は可愛いよ」 全て劉が考えたゲームのシナリオ通りという訳か。 「・・・地獄へ落ちろ!」 俺の言葉に口元だけで笑うと 劉は耳元で『弟によろしくな』と囁き 何の躊躇も無く引き金を引いた。 終焉を向かえ独り残された俺はぼんやりと 目の前に横たわる動かなくなった男を眺めていた。 背後に気配を感じたが、振り向くことなく声をかける。 「おい、本間」 「はい」 「楊から振り込まれた金はお前が自由にして良いぞ」 「はい」 俺は暫く黙っていたが、ふと思い立ち本間に質問をした。 「香港返還まであと何年位だ?」 そう本間に問いながらは徐に煙草を出し口に運ぶ。 ライターを探すが見当たらず ポケットの中に手を突っ込みガサガサと探す。 そんな俺を横目で見ながら本間は答える。 「後、2年程でしょうか・・・・・  ライター、見つかりました?」 「いや」 本間はズボンのポケットからライターを取り出し 銜えた煙草に火を点けた。 「お、悪いな」 「いえ」 俺は煙草の煙を肺に吸い込み 吸った煙を動かなくなった翔と隣に転がる輩に向かって吐き出した。 「新義安のボスの方はアレで良かったんですか?」 「ああ。  あの状態じゃあな・・・・。  まさか、あいつが親父を撃つとは・・・  あいつが長老をやっちまったから代表にしてやるしかないが・・・  ま、それも良いんじゃねえか。  あの状態なら俺の思うままに動かせるしな」 「ウォンも?」 その本間の問いかけに 数秒の間を空けて答える俺の瞳の奥には あの・・・売られて行った青年の姿が潜んでいた。 「愛する奴の傍にいられるんだ。  それはそれで幸せだろう?  例えそれがどんな容でもな」 何かを吹っ切る様に俺は突然、笑いだすと 「しかし、人間てのは馬鹿ばっかりだな。  直ぐ目の前に答えもそれを読み解くパスワードも  ちゃんと用意されてるって言うのによ・・・・  ま、かく云う俺もその中の1人かもしれんがな」 そう言いながら俺は・・・ 瞳の中にいた青年とその母親だった女に別れを告げた。 「おい、香港返還までにもう一遊びするとするか」 「そうですね」 「本間、今度はもっと楽しめる奴等を用意してくれ!」 「わかりました。  俺はもう帰りますが・・・劉様はどうします?  良かったら俺の車で送りますが・・・・・・・」 「いや・・・・俺は・・・・・・  もう少しコイツの顔を見て・・・・・」 「・・・・」 俺の曖昧な返事に本間は何も答えず 頭だけを下げその場を去った。 夕闇の中に消えていく本間の背中を見送った俺は 自分が吸っていた煙草を 微笑んでいる様にも見える翔の唇に銜えさせてやった。 — 目をそらすな 空が落ちてくる瞬間、パスワードが現れる — ここから先への進入はパスワードが必要。 あなたのパスワードは・・・・・・? 大輝  or  翔 ※以降はスター特典にて公開いたします。
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