vol.1

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vol.1

— 目をそらすな   空が堕ちてくる瞬間、パスワードが現れる — 俺は数メートル先の男に銃口を向ける。 男は一瞬 哀しげな眼差しを俺に向けた後 「お前になら殺されても良い」 そう言い放つと両手を広げ瞳を閉じた。 「・・・ち・・がう・・・・俺はお前を・・・・・!!」 俺が叫ぶと同時に 男が背後から忍び寄った影に胸を刺された。 俺の腕が地面へと崩れていく男を抱きとめる。 男は口から血を吐きながらも微笑み 「・・お前に・・な・・ら・・・殺されも・・・  良い・・・と・・思っ・・・た・・・・・」 男は苦しい息の中その言葉だけを紡ぎ 俺の頬に触れようとした男の指が虚しく宙を舞い そのまま男は息絶えた。 俺はこの男に狙いを定めていたのではない。 この男の背後に潜む影に銃口を向けていたのだ。 ガランとした倉庫の中に 俺の言葉にならない叫び声だけが響く。 俺は闇に消え去った影を追う為に立ち上がった瞬間 頭に鈍痛を感じそのまま意識が無くなった・・・・・。 「!!」 僕は得体の知れない恐怖に怯え 横たわっていたベットから飛び起きた。 「また、同じ夢・・・・・・」 傍にいた男が僕を抱きしめる。 「どうした?」 男が優しく僕の背中を擦りながら訊いてくる。 「偉・・霆・・・?」 「そうだ・・・偉霆だ」 偉霆・・・ 僕を大切に扱ってくれる人。 僕を傷つけたりしない人。 僕を愛していてくれた人。 僕は偉霆に出会うまでの記憶を無くしてしまっていた。 そんな僕に彼は温かく接し 『無理に思い出さなくて良い。  忘れた方が良い事も時にはある』 そう言って何時も優しく微笑んでくれる。 僕は恐怖から逃れたくて彼に夢の話をし始めた。 「また、同じ夢を見た・・・  僕が男に銃口を向ける夢・・・・・・」 「ウォンが銃口を?」 「そうなんだ・・・夢の中で僕は銃を持っている・・・  それに自分の事を俺って・・・  偉霆、それって変だと思わない?」 「ウォンが俺?」 そう言った後に偉霆は少し笑った。 「ウォンに俺なんて形容詞は似合わないな」 「それだけじゃないんだ。  その男も僕を知ってるみたいで・・・  僕になら殺されても良いと・・・・・」 そこまで偉霆に話した途端 僕の頭の何処かで警告音が鳴り始める。 僕の記憶の中に誰かが入り込んで来た。 『俺はお前を利用していただけだ』 意識が朦朧とし始める。 でも僕はその呪文の様な言葉を拒んだ。 「嘘・・だ・・・・違う!!  お前は・・・俺を・・・・・」 意識が混濁する。 「ウォ・・・ン?」 「俺は、お前を殺そうとしたんじゃ・・・ない!  俺はお前を・・・助けた・・かった・・・んだ・・・・!!」 「ウォン!」 「い・・やだ・・・助け・・・・」 「しっかりしろ、ウォン!!」 俺を押さえるこの男はいったい誰・・・・? ここは・・・? 俺の周りで鳴り響く耳障りなサイレンを誰か止めろ。 このままでは闇に飲み込まれてしまう。 お前を殺した同じ闇と影に!! 突然、誰かが俺の唇を塞いだ。 口付けと共に焼ける様な熱さが喉を伝い 俺のカラダの中に落ちていく。 「何を・・飲ませ・・・た・・・?」 「ウォン・・忘れろ・・・無理に・・思い・・だ・・・・・」 睡魔が目の前の男の言葉をかき消し、 男の言葉を最後まで聞き取れないまま 俺は深い眠りに落ちていった。 偉霆は錯乱し叫びだしたウォンの唇を塞ぐ様に 口移しで睡眠薬をウオッカで流し込んだ。 薬が効き始め寝息をたてるウォンの細くしなやかな髪を優しく梳かす。 「ウォン・・・」 暫くの間、偉霆は智の寝顔を見つめていたが 何か意を決したかの様に扉の外で待機している家衛を呼ぶ。 「家衛、入れ」 偉霆に呼ばれた家衛は1秒と間を取らず部屋に入って来た。 「失礼します」 「お前はこのままウォンを見張っていろ」 「はい」 「今、薬を飲ませた。  今夜はこれ以上与えるな」 「はい」 「家衛、ウォンと一緒にいたのは和勝和の息のかかった奴で間違いないな」 「はい」 「俺は仕事に戻る」 ベットに腰掛けていたが偉霆立ち上がるとほぼ同時に 家衛は扉を開けた。
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