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子供はみてるよ
日曜日は僕にとって楽しみな日だ。
寝室からリビングに行った僕は目を擦りながら、おはよう、と母さんに声をかける。
「あら、おはよう。今日もちゃんと1人で起きられて偉いわね」
母さんは朗らかに笑う。
もー幾つだと思ってるのさ、と軽口を叩きながら、テレビをつけた、と言っても特に見たい番組がある訳でもないので、つけっぱなし。
カーテンから差し込む日の光から天気は快晴な事は容易に想像がつく。
キッチンに立って後ろ姿の母さんが、少し涼しくなったら近所の公園に行こうかとか、スーパーに行こうかとか、そんなことを話していた。
そうだね、なんて返事をしながら、ぼーっと外を眺める。僕はどうせそんな気は母さんにないことを知っている。
天気は快晴、父さんは日曜も変わらず5時には家を出ていった。これは昔っからで家にいるよりも職場にいる方が多い父さんはたまーに日曜日もいるくらいで基本的に出勤している。(ブラックなのか、どうなのかはよく分からない)
テレビから流れる戦隊ヒーローの音をBGMに、母さんは作ったものをテーブルに並べていく。
用意されていく朝ごはんが並ぶテーブル。
僕はまだ自分の背より少し高い椅子を引いて、ちょっとだけ、飛び乗るみたいにして、椅子に座ると、テーブルに並ぶ、平日より少しだけ豪華な朝ごはんをみた。
「さあ、食べていいよ」
美味しそうだし、別に嫌いなものは無いけれど、胃が少しだけキリキリといたんだ気がしたけれどきっと気の所為で。
ニコニコと笑う母さんは一緒に食卓を囲むことは無い。
(あ、やっぱり。)
僕は、そう思いながらもいただきます、と両手を合わせて、まず目に入った食パンを口にする。
サクッと音を立てたパンの耳で口の端が少し擦れてちょっと痛かった。
日曜日の特別。
カリカリに焼かれたベーコンと、フワフワのオムレツ横に添えられたベジタブルミックス、バターの塗られた焼きたての食パンに、好きなのを選んでいいよ、と言われた買い置きのお湯を入れるだけで簡単に出来るカップスープ(僕は大好きなコーンスープを選んだ)。
デザートにはいちごのソースがかかったヨーグルトつき。
普段は朝から和食が多いのだけれど、日曜日の朝は大抵、洋食寄りのメニューが多い。
そして、母さんは一緒に食べない。
母さんは洗い物をしながら、今度は大きなフライパンを使って何か作っている。
僕の予想ではアレは、昼食かな。
朝食を半分食べ終えた頃には戦隊ヒーローは少女向けの戦う女の子たちのアニメに変わっていて、ふとそれに気づいてテレビに目をやる、キラキラした女の子たち。
母さんはなんでもない事のようにサラッとテレビのチャンネルを変えて、今度はニュースになった。チャンネル争いなんてしてもいないし、別に文句を言うつもりはないけど、一声かけてくれればいいのにとは、いつも思う。
さっきまで作っていたのであろう料理を大皿に盛ってサランラップをかけて冷蔵庫に入れた母さんを見て、僕は、今日の予定が決まったことを察した。
ピロン、と母の携帯電話にメッセージが届いたことを知らせる音楽が鳴った。
それを聞き、画面を見た母さんは、「急な仕事が入ってしまった、ごめんなさいね」と、母がバタバタと出社の準備を始める。
僕は大丈夫だよと、返事をして、もそもそと朝食の残りを食べ続けた。
「本当にごめんね!」
「戸締りには気をつけるのよ、なるべくすぐ帰れるようにするからね 」
母さんはそう言うと、僕に1度ハグをして「行ってくるわね」、と言う。
平日なら逆だなぁとちょっと思った。
朝の登校時間は母さんの出社の時間より早いから、僕が言うのはいつも「行ってきます」で。
でも、日曜日のこういう日は、僕が母さんに「行ってらっしゃい」と送り出すんだ。
そうすると、母さんは笑って手を振って玄関を出ていく。
大丈夫、僕は1人で留守番だってできるし、母さんの秘密だって守ってあげる。
ふと、さっき何気なく見た戦隊ヒーローを思い出した。
ボロボロになった街は戦いが終われば大抵何事も無かったように綺麗に戻る。
戻って、ヒーローたちだけが何が起きていたのかを知りながら、時間は回っていく。
ボロボロで敵に脅え、逃げ惑っていた人たちの恐怖心はどこへ消えるんだろう。
もしかしたら。そういう描写もあるのかもしれないけれど、詳しく見ていないし、そこら辺はよく分からない。
ヒーローは泣いている子に大丈夫と笑う。
俺たちが助けてやるから、どうにかしてやるよ、と根拠なんてどこにあるのかも知らないその言葉は未知の生物に脅える人達に勇気を与えてくれる。
僕はだからいつも、母さんを送りだす時、必ず1度は大丈夫と言うようにしているのだ。
「大丈夫、(僕は何も言わないよ)」
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