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母さん、僕はあなたが思うより。
もう、そんなにきっと子供ではないんだと思う。
母さんが会社に行く時に履く黒の低いヒールと、日曜日にだけ履く靴箱の奥に隠された、赤いヒールの違いくらい、なんとなく、分かってしまう。
そういうことなんじゃないかと、ずっと思ってる。
悪いことなんだろう。
でも、母さんは父さんと違って怒鳴らないし、僕が僕であることを、責めないから。
フラ、っと椅子から降りて、部屋に向かって差し込む太陽を見た。
眩しい。
嘘も、何もかも許さないとでも言いそうなそれに僕は口元に人差し指を当てて、「しーー」っと、笑う。
開かれたカーテンをシャッと引くと、お日様なんて部屋の中を覗きも出来なくなる。
さて、太陽の光が差し込まなくなった代わりに部屋の電気を付ける。
自然光のギラギラした明かりより、電気の明かりの方が昔から好きだ。
朝食の並ぶテーブルに戻る前にキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。
先程、サランラップをしていたのは、炒飯。
いつも通り作り置きのお惣菜。
冷凍庫には温めれば食べられる様になっているご飯もあるし。
他にも食べてね、とメモ書きが貼られたケーキもある。
「…ふーん」
興味はないけど、何となくわかった。
僕は朝ごはんの続きを食べる。
口に運び、噛み砕いて、咀嚼して。
また口に運ぶ。
(食べ終わったら、何をしよう。
録り溜めしたドラマでも見ようか。
アニメでも見ようか。
映画でも見ようか。
本でも読もうか。)
時間はあるから、急ぐことは無い。
準備されたケーキはきっと、15時のおやつ。
そのくらいの時間に父さんから飲みにでも行くと母さんに連絡があれば、母さんは21時過ぎくらいまで帰ってこないだろう。
自由な時間は大事だよね。
秘密はバレなければ、いいんだし。
日曜日は秘密の日なんだから。
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