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「でも……」
「海! きみが納得するまで、僕は何度だって言うよ。きみのせいじゃない。きみは悪くない!」
肩を強く掴まれ、ノラが何度も何度も言い聞かせる。
「だから、そんなに自分を責めるな!」
そう言われて、あの日、夢の中で聞こえなかった啓太の言葉が降り注いで来た。
『にぃにのせいじゃないよ』
『にぃに、幸せになって』
その瞬間、啓太が死んでから1度も流れた事の無い涙が溢れて来た。
「俺の……せいじゃ……ない?」
「そうだよ! 海のご両親は、全部海に押し付けて逃げ出したんだ。誰が聞いたって、啓太君の死は海のせいじゃない!」
ノラはそう叫ぶと、両手を床に着いて泣き崩れる俺の身体を強く抱き締めた。
「挫けそうになったり自分を責めそうになったら、いつだって何回だって僕が言って上げる。海のせいじゃない。ずっと一人で、啓太君の死を背負って辛かったよな」
ノラの身体も、小刻みに震えている。
見上げると、ノラの瞳からも涙が溢れていた。
「ノラ……?」
驚く俺の頬を両手で包み
「海、これからは僕が海を守る。海の背負って来た人生を、僕に半分背負わせてくれないか?」
と言ったのだ。
「ノラ…………」
目を見開く俺に、ノラの綺麗な顔が近付いて来て、唇が重なる。
そのまま畳に押し倒され、ノラの手が俺のスエットの裾から地肌へと滑り込んで来た。
唇から頬へと移動した唇は、俺の首筋に吸い付くように這わされる。
「海…………海…………」
掠れたノラの声と、ノラの中心の昂りが俺の下半身に当たっている。
今まで、こんな劣情は俺だけがもっているのだと思っていた。
ノラの荒い呼吸音と衣擦れの音が響く中、俺は何が起こっているのか理解が出来ずにいたんだ。
ただ、俺に触れるノラの手と唇の熱さが伝わって来て、自分がノラに欲望対象になっている事が信じられないでいた。
片思いしか経験の無い俺は、どうして良いのか分からなくなってしまい目をギュッと閉じてしまったのだが、もしかしたら夢なんじゃないか?と恐る恐る目を開けてみた。
その瞬間、仏壇の写真が目に飛び込んで来た。
「待て!ノラ、待ってくれ」
慌ててノラの身体を引き離そうとしても、離れてくれない。
思い切って突き飛ばすと、ノラが驚いた顔をして俺を見ていた。
「海……なんで?」
俺が突き飛ばすなんて、夢にも思わなかったのだろう。鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていやがる。
……ノラはきっと、今までの人生で人から拒否された事など無かったのだろう。
そう思うと、段々と腹が立って来た。
「何でって……、それはこっちのセリフだろう!いきなりキス……するし、その上……」
口にしているだけでも恥ずかしくて、思わず赤面していると
「海、その顔は反則」
そう言って、ノラまで真っ赤な顔をしている。
そしてゆっくりと体勢を直して、俺と向き合うように座ると
「海は、僕が嫌い?」
と、いきなり聞いてきた。
「へぁ?」
突然の質問に、素っ頓狂な声が出てしまう。
少しの間ノラと見つめ合っていると、ノラが四つん這いの格好でジリジリと距離を詰めて来た。
「ま、待って来れ! 爺ちゃんと婆ちゃん、啓太が見ている」
苦しい言い訳をすると、おもむろにノラが立ち上がったのだ。
慌ててノラの足首を掴むと
「なに?」
と、凄い形相で見下ろして来た。
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