ノラが……消えた

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『ガタガタ』  どのくらい泣いていただろうか? ノラの居ない絶望に、子供みたいにわんわん泣いていると玄関を開けようとする音が響いた。 暫く開けようと玄関の引き戸をガタガタと鳴らしたかと思うと、今度はガンガンと玄関の引き戸のガラス窓を叩いて来たのだ。 この家に人が訪ねて来る事なんて、滅多に無い。 涙を拭い、ちゃすけと顔を見合わせていると 「海?居ないの?」 と、ノラの声が聞こえたのだ。 慌てて玄関を開けると 「締め出すなんて酷いなぁ〜」 って苦笑いしているノラが立っている。 「なんで?」 「なんで?って、メモ見てないの?」 そう言いながら、ノラがなにやらデカいバッグを肩から下げて家の中に入って来た。 「え?家に帰ったんだよな?」 「そう、荷物を取りにね」 「……お前」 へなへな〜っと座り込む俺に 「え?もしかして、出て行ったのかと思ったの?」 そう言うと、そっと俺の目元に触れて 「瞼が腫れてる。もしかして、帰って来てからずっと泣いてたの?」 心配そうな顔をすると、俺の身体をギュッと抱き締めた。 「俺が居ないと、海は泣いちゃうの?」 なんだか少し、嬉しそうな声が聞こえた。 俺はそんなノラにしがみつくように抱き着き 「泣くよ! お前が居ない人生なんて、考えなれないんだから!」 そう呟くと、ノラは俺の身体を再びギュッと抱き締めて 「海……どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい!」 と呟くと、ゆっくりと俺の身体を離して頬に手を当てた。 ノラは俺の顔を愛おしそうに目を細めて見つめると 「海、愛してる」 と囁いた。 「ノラ…………」 嬉しくて涙が込み上げて来ると、俺の額、瞼、頬にキスを落とし 「海……、不安にさせてごめんね。もう、海を不安になんかさせないから」 そう言うと、再び俺の身体を強く抱き締めた。 「今日、実家に帰って、逃げていた問題を片付ける手続きをして来たよ」 「逃げていた問題?」 「うん。僕さ、家の遺産問題に巻き込まれて人間不信になっていたんだ。何もかもが嫌になって自暴自棄になっていたそんな僕を、何も言わずに助けてくれて、その上、面倒まで見てくれて本当にありがとう」 俺の頬にノラの頬を擦り寄せると、ノラは小さく微笑んだ。 「そんな……」 「あの日、海に出会っていなかったら……、僕は死んでいたと思う」 暗い瞳で語るノラに、どう返したら良いのか分からなくてギュッと抱き締めると 「だけど、海に出会えた。僕の事を何も聞かず、いつもいつも気にかけてくれて、手を差し伸べてくれた。それが……本当に嬉しかったんだ」 そう言うと、ノラが俺の頭にキスをする。 俺がゆっくりとノラの顔を見上げると、優しい笑みを浮かべたノラが 「海……残りの人生、俺に海の面倒を見させて」 と呟いたのだ。 「ノラ……」 驚いてノラの顔を見上げると、ノラはふわりと笑顔を浮かべ 「(おさむ)」 と呟いて、俺の頬を撫でた。 「え?」 「僕の名前、佐々木理って言うんだ。ずっと、明かせなくてごめんね」 優しい瞳で俺を見つめているノラ……こと佐々木理の胸に顔を埋めて、首を横に振った。 (理……ノラの名前は、理なんだ) ノラの本名を知られて、なんだか距離がグッと近付いた来がした。 「理……」 「はい」 「理……」 「何?海……」 名前を呼ぶ度、返って来る返事が嬉しくてニヤニヤしてしまう。 そんな俺を黙って見下ろしているノラの視線が恥ずかしくて、思わず海の胸元に顔を埋めた。 するとノラはムギュっと俺を強く抱き締めて 「海!そんなに可愛い反応されると、我慢出来なくなるんだけど!」 そう叫ばれて、腰を引き寄せられる。 ノラの中心部の熱に赤面すると 「もう!普段はカッコイイ癖に、こういう事になると可愛くなるの狡い!」 と、唇を尖らせるノラ。 「カッコイイ?誰が?」 「ほら、自覚無い!」 ピンっと、俺の額に軽くデコピンすると 「海は、カッコイイよ」 そう言って微笑んだ。 俺は額を撫でながら 「そんな事無い。ノラ……理の方がカッコイイよ」 今度は俺が唇を尖らせると 「ふふふ、じゃあ……イケメンカップルだね」 なんてノラは言うと、額にキスを落とした。 そして俺の身体をギュッと抱き締め直すと 「海、この先の人生を、一緒にここで過ごしても良いですか?」 そう言われて、驚いてノラの顔を見上げた唇にキスを落とされた。 「え?な!えぇ!」 叫んだ俺を強く抱き締めたまま 「まぁ……ダメって言われても、絶対に離さないけどね」 って微笑んだ。 「お前!キャラ変わりすぎ!!!」 俺の叫び声が部屋の中に響いたのは、言うまでもない。
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