幸せの在処

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「何でそう言い切れるんだよ。分からないじゃないか」 頬を膨らませて呟いた俺に 「分かるよ。ねぇ、海。このバッグの中、何が入ってると思う?」 ノラは肩から掛けていたデカい旅行バッグを指差し、ニヤリと笑う。 その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 「はぁ!不用心だろうが!金庫?金庫を買うべきか?いや、今ならATMには預けられるだろうから銀行に……って、普通預金の限度額っていくらだ?お前、幾つ銀行口座ある?この家は古いから、セキュリティーが……」 アワアワと狼狽える俺に 「海、ごめんごめん。この中は全部着替え」 って言いながら、腹を抱えて笑っているじゃないか……。 安心してヘナヘナ~っと座り込むと 「ほら、海は大丈夫だったでしょう?」 ノラが俺の前に跪き、手を差し伸べた。 「え?」 「金の亡者だったら、そんな反応しないよ。どうやったら自分のものになるのかを企むだろうね」 ノラの手を掴む俺を立たせながら言うと、ノラは俺の身体を抱き締めて 「でも、海は俺の心配をしてくれた」 そう言うと、俺の肩に額を乗せて 「実はさ、ほんの少しだけ不安だったんだ。だけど、やっぱり海は僕の大好きな海だった」 そう言ってから顔を上げて微笑んだ。 ふわりと微笑むノラの笑顔に、俺も笑顔を返すと 「海、大好きだよ」 頬にキスをして囁かれる。 「ノラ……俺も」 言いかけた言葉を、ノラの綺麗な人差し指が唇に当てられ 「理!」 と、頬を膨らませた。 「……理」 改めてノラの名前を呼び、頬が熱くなると 「海、その顔狡い」 ノラは唇を尖らせて呟き、俺の頬を両手で包む。 愛おしいと、ノラの目を細めて俺を見つめる視線が語ってくれている。 「どんな顔?」 「僕の名前を呟いて、真っ赤に照れた顔だよ」 「ふふふ、それが狡いの?」 「狡いよ! 無表情だった海が、こうしてたくさん表情を見せてくれるのは嬉しいけど……。照れた顔を見ると、我慢出来なくなる」 ノラの最後の言葉に、思わず笑顔が固まる。 するとノラはニヤリと笑い、ポケットからお財布を取り出して中から免許証を出すと、俺の手に乗せた。 そこには少しだけ若いノラ……こと、佐々木理の顔写真入りの名前と住所が書かれていた。 「身分証明書だよ」 「うん」 「これで僕の事が証明出来たよね?」 ノラはそう言いながら、何故か俺のシャツのボタンを外し始めた。 「ちょっと待て! これとそれ、なんの関係があるんだよ」 慌てて腕を掴みノラに言うと 「あれ?約束忘れたの?」 そう言って 「『お前が本当に俺とずっと一緒に居てくれるなら……。その覚悟が本物なら、俺はいつだってお前の好きなようにしてやる』って言ったよね?」 と言い出した。 「え?」 「それに、本当の名前とか、僕の事を色々知りたいんでしょう?だから、身分証明書を出したし」 ニッコリ笑うノラ。 「だからって……今?」 「だって、海が僕をムラムラさせた訳だし」 「ムラ……」 ノラの言葉に真っ赤になると 「ほら、その顔。絶対に僕を煽ってるよね?」 そう言ってノラが俺の腰を抱き寄せた。 ノラの中心部の硬い感触に、益々赤面してしまう。 「海、可愛い。僕の……僕だけの海」 ノラはそう言って、俺の額、頬、唇にキスを落とした。 そして強く抱き締めると 「海、僕と残りの人生を一緒に生きてくれませんか?」 優しくそっと囁いた。 俺はまるで、絵本の中のお姫様にでもなったかのようで恥ずかしかったけど 「ノ……理。末永く、よろしくお願いします」 と答えた。 そんな俺をノラが押し倒し、顔中にキスの雨を降らせる。 「ノ…………理、落ち着いて」 「落ち着いてなんか、いられないよ!大好きな海を、やっと手に入れられたんだから」 ノラはそう言うと、俺の頬を両手で包んで唇を重ねた。 重ねた唇から舌を差し込まれ、熱く激しいキスを交わす。 こんなに激しく求められたのは、初めてだった。 いつの間にか、俺自身もノラのキスに答えるようにキスを交わす。 口内を犯すノラの舌に、自分の舌を絡ませるとザラリとした感触に腰がズクリと疼く。 ノラの背中に腕を回し、お互いに食い尽くす勢いでキスを交わした。 やがて唇が離れ、お互いの洗い呼吸音だけが響き渡る。 「海……良い?」 頬に触れられ、互いの中心部の昂りが擦れ合い焦れったい。 ノラの熱い眼差しに、浮かされるように頷いたその時だった。 『ズシン!』と、ノラの背中に何かが飛び乗った振動が伝わった。 俺とノラが見つめ合うと、ノラの背中に飛び乗ったちゃすけが、『俺も混ぜてくれよ!』と言わんばかりにノラの背中で伸びをした後 「にゃ~ん!」 と高らかに鳴いたのだ。 俺とノラは顔を見合わせ、思わず吹き出して笑ってしまった。 「ごめん、ごめん。ちゃすけも寂しかったんだよな」 ノラの背中にいるちゃすけに手を伸ばすと、ちゃすけは『分かればよろしい!』という顔をして、ノラの背中から飛び降りた。 ノラはちゃすけを抱き上げると 「これからは、僕と海。そしてちゃすけの3人家族だな」 そう言って、幸せそうな笑顔を浮かべた。 俺はきっと、海のそばなら何処だって幸せな気持ちになれるんだと気が付いた。 そしてこれから、俺たちはずっと……この場所で2人と1匹で暮らして行くのだとそう思ったんだ。
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