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運命の出会い
出会い方はベタな出会いだった。
仕事が終わり帰り道を歩いていると、ゴミ捨て場に人が倒れて居るのを見掛けた。
そのまま素通りしようと、ゴミ捨て場に視線も向けず通り過ぎようとした時だった。
「にぃに!」
啓太に呼び止められたような気がして振り向くと、ゴミ捨て場に若い20代の男がぐったりと倒れている姿が飛び込んで来た。
そいつの髪の毛は啓太と同じ薄茶色に柔らかい猫っ毛で、何故か啓太が生きていたらこの位の年齢かもしれないと脳裏を過ぎった。
すると、考えるより先に身体が動いていた。
「おい、生きてるか?」
声を掛けると、ぐったりとしたそいつがぴくりと動いたのが見えた。
「にぃに……にぃに……」
そいつの青白い顔を見た時、泣きながら俺に両手を伸ばして泣いていた啓太の最期の姿が何故か浮かんで来た。
その瞬間、俺はごみ臭いそいつを担いで家まで運んでいたのだ。
担いだそいつの身体は驚く程、軽かった。
自宅に連れて帰り、ゴミ臭くなっているこいつを風呂に入れない事には病院にも連れて行けないと考えて、なんとか髪の毛や、やせ細った身体を洗って俺の服を着せた。
そして、爺ちゃん婆ちゃんがお世話になった個人医院の医師の所に泣き付いた。
本来は入院施設も無い病院なのに、医師は俺から事情を聞くと、体調が良くなるまでは病院で預かってくれると言ってくれた。
診断結果は「栄養失調」
現代の日本において、栄養失調って……。
驚く俺に、医師は苦笑いしながら
「何かワケ有りなのかもしれないな」
と呟くと
「で、どうするんだ?」
そう静かな声で問いかけて来た。
どうする?
そう聞かれて、俺が医師の顔を見ると、医師は深い溜め息を吐いて
「何だ、何にも考えずに連れて来たのか?」
と、呆れた顔をされてしまう。
「あ!治療費は俺が払います」
慌てて答えた俺に、医師はデコピンをすると
「そっちの心配をしているんじゃない。犬や猫じゃないんだ。回復した後、どうするんだ?」
と聞かれてハッとした。
俺は少し考えてから
「彼が目覚めた時、どうしたいか聞いてから決めても良いですか?」
そう答えると
「俺に聞くな。決めるのは、助けた海だよ」
と苦笑いをしていた。
医師にそいつを預けて、俺はその日は帰宅した。
何かあったら連絡を来れると言っていたので、安心して任せていたら、結局、そいつは3日間眠り続け、4日目にやっと目を覚ましたのだ。
「大丈夫か?」
病院から連絡が入り、慌てて駆け付けた俺の声にそいつはゆっくりと頷くと
「あんたが……助けてくれたのか?」
掠れた声で聞かれた。
そいつは俺が頷くのを確認すると
「警察には?」
と、不安そうに聞いてきたので
「大丈夫だ。お前がどうしたいのかを聞いてから身の振り方を考えるつもりだったから、何処にも連絡していない」
そう答えると、そいつは俺の言葉にホッとした顔しと
「ありがとう」
と、唇だけを動かした。
まだ、言葉を発するのも大変みたいだったので
「気にしなくて良いから、今はゆっくり休め」
そう言って、そっとそいつの額に触れると、そいつは俺にふわりと笑顔を浮かべて頷いた。
その笑顔にドキリとしたが、俺は邪念を払うように首を振ると、そいつは不思議そうな視線を向けて俺をジッと見つめている。
俺がそっとそいつの頭を撫でて
「俺の事は良いから……。まだ、眠いんだろう?」
ウトウトしているそいつにそう言うと、そいつは小さく頷いてからゆっくりと瞳を閉じると、直ぐに寝息を立て始めた。
温かい日差しが差し込む部屋で、なんとも言えない穏やかな時間が流れて居た。
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