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結局、そいつは最低1週間の入院を余儀なくされてしまい、ようやく1人で動けるようになってから俺の家に連れて帰った。
「狭い家だけど……」
そう言って自宅に招き入れると
「こんなに簡単に、何処の馬の骨かも分からない人間を自宅に招き入れて良いのか?」
と聞いてきたのだ。
「取るものなんて、何も無い家だからね」
肩を窄めて返事をすると、そいつは家をぐるりと見回し
「そうだね」
なんて返事をしやがり、俺が唇を尖らせて
「貧乏臭くて悪かったな……」
と呟くと、そいつはハッとした顔をして
「ごめん、そういう意味で同意したんじゃないんだ」
と慌てた顔をした。
その顔がやけに幼くて、もしかしたらかなり歳下なのかもしれないと思った。
「ちなみに……あんた、成人しているよな?」
恐る恐る聞いた俺に、そいつは口をあんぐりと開いてから
「僕、童顔だけど、そこまで幼く見られたのは初めてだよ」
と呟いた。
「だよな。いや、ほら!最近の若い奴って、大人びているだろう?」
アタフタしながら答えた俺に、そいつは「ぷッ」と吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。
「あんた、面白いな」
涙を流しながら笑うそいつに
「俺の名前は海。宮本海だ。あんたの名前は?」
と質問した途端、笑顔が消えて俯いてしまう。
「言いたく……ない?」
遠慮がちに訊ねた俺に、そいつは申し訳無さそうに頷いた。
「そっか……、困ったなぁ~。お前とかあんたとか呼ぶのも、どうかと思うしなぁ~」
考え込む俺に、そいつは縋るような視線で俺を見ると
「僕は……それでも構わない」
と答えたのだ。
益々困って唸っていると、庭に居着いてしまった野良猫が餌が欲しいと縁側に座って「にゃあにゃあ」と鳴いていた。
その野良猫は、薄い茶色の毛並みをした茶トラだった。
「ノラ……」
「え?」
「あんたの名前、ノラでどうだ?」
今思えば失礼な名前だが、この時はめちゃくちゃ名案だと思ったんだよ。
するとそいつは、縁側に座って鳴いていた野良猫を抱き抱えて
「ノラか……。うん、それで構わないよ」
ふわりと柔らかく微笑むそいつの笑顔に、どうやら俺はハートを射抜かれたようだった。
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