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とある土曜日。いつもより遅くに起床したフミオは、とりあえず床で一服、煙を吐く。
「ああ、今日こそあいつに渡すかあ」
煙草のフィルターぎりぎりまで吸って、それを灰皿へと擦り付けて。
「よしっ」
重い腰を上げた。
居間へ着き、まず聞こえたのは煎餅を齧る音。
バリンボリン、バリンボリン。
その音は、座椅子の背面から大層はみ出た、丸い肩越しからしていた。
バリンボリン、バリンボリン。
フミオは苛立ち、手に持つ用紙を投げつける。
「なぁに朝っぱらから煎餅食ってんだ、アケミィ!」
くしゃっと丸まったそれが見事に当たれば、当てられた本人は牙を剥く。ぎろりと交わるふたりの視線。
「なぁにが朝よ!あんた一体、今が何時だと思ってんの!?もう11時よ!?寝言は寝て言え、この煙草じじい!」
「んぁー!?じゃあ寝て言ってやるから、夜中ずーっと俺の部屋で聞いてろよー!?」
「あんたの部屋なんか行きたくないわ!加齢臭に煙草臭に、寝っぺまでするんだから!ぷかぷかぷっぷばっかして、馬鹿じゃないの!?」
「うるせえこのメタボ女!阿呆みたいにぶよぶよ太りやがって、お前の体はもうぽっちゃりを超えて、どっちゃりだからな!」
「あんたがガリガリすぎんのよ!」
フミオとアケミ。30年連れ添ったふたりのこんなやり取りは、いつものこと。
「このガリバー女!」
「黙れこのひしゃげたカカシ!」
「ジャンボダンプカー!」
「楊枝の擦り切れ!」
かすがいだった子供が3人家を出れば、もはや縁を切るのに躊躇はない。
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