スナイパーカメラマン

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 男が戦場で使うような大きな銃で私を狙っている。男はピタッと動きを止め、つぎの瞬間まぶしい光があたりを覆った。男は銃の上に取り付けたカメラで今撮った写真を確認し、また片目を閉じ銃で私を狙った。紺色のソファーに私の額から出た汗がしたたり落ちたが、拭うことはできなかった。  この男は普段スナイパーとして生計を立てている副業カメラマンだ。私はこの男に取材を申し込んだのだが、カメラの被写体になるという条件で取材を許された。 「いつからカメラマンをされているのですか」 「昔から好きだった。生きている鳥や虫の動きが止まるのを見るとにやけが止まらなかった」  私は一瞬それがカメラの話をしているのか銃の話をしているのかわからなくなった。 「独特なスタンスで撮影されますね。理由はあるのですか」 「こうしてる方が狙いを定めやすい。緊張感を保つために実弾もいれてる」 「あの、できれば、実弾はなしでお願いしたいのですが」私は自分の声が上ずっていることに気づいた。 「ああ?ここはラーメン屋じゃねえぞバカ」 「すいません」 「おおきいこえだすなよ。手が滑ったらお前の頭は粉々だ」私は悲鳴を上げそうになり、すぐに口をふさいだ。 「動くな。俺はふらふらした被写体が一番嫌いなんだ」私は口に置いた手をゆっくりと音をたてないように元の位置に戻した。 「ポーズをとれ」 「えっとどういう風な?」 「なんでもいい。とにかくポーズをとれ」カメラマンがそういったので私はぎこちなく右手でピースを作った。しかし私がそうした時カメラマンは舌打ちをした。 「おれはそのポーズが大嫌いだ。敵兵を追い詰めたときそいつに言い残すことはないかと聞いたらそいつがピースしやがった。何が平和だ。おれはリボルバーを連射して殺してやったよ」私は即座にピースをおろした。 「賢明な判断だ。おい、次そのポーズをして生きて帰れると思うなよ」先に言ってくれ。私は心の中でそうつぶやいた。 「さあ、ポーズをとれ」私は次間違えたら命はないと思いなかなか行動に移せなかった。 「あと3秒以内にやらないと俺は引き金を引く」私はパニックになり、とっさに両腕を上げた。 「降伏のポーズか、悪くない選択だ」男は銃のスコープを覗いた。 「しね」カメラマンはそう言って引き金を引き、発砲と同時に鈍い大きな音が響いた。  目を開けると私はまだ地上に立っていた。銃弾は私の顔をかすめて壁に埋め込まれたように突き刺さっていた。私はそれを確認すると腰が抜けてソファーに崩れ落ちた。そしてその瞬間シャッターが切られる音がした。 数日後郵便受けを確認すると家具のカタログが入っていた。家に持って入りペラペラとめくると、脱力ソファーという見出しで腰が抜けた自分と、座っていたソファーの写真が掲載されていた。その写真に拳銃の気配は一切なく、気持ちよさそうにソファーに座る男が映っていた。
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