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プロローグ
ーーside 小早川 梓
”1人前”は誰にとっての1人分の食事なのだろう。
「今日も? ほら、早く残した分のお盆持ってきて並びなさい!」
見るからにイライラした様子の先生はそう言って私を無理やり給食の配膳口に立たせた。奥では給食のおばちゃんなる人物たちが私には目もくれず皿洗いなどの片付けをしている。これは小さい頃の私の記憶。
口が渇く。鉄の味がする生臭い牛乳はさっき飲んだのに。近くて遠いところで昼休みを楽しむ同級生達の声が聞こえる。
先生は嫌いだ。給食は嫌いだ。食事は嫌いだ。”1人分”に定義されたそれをきちんとこなせない自分も嫌いだ。
あぁ、ほら。早く。言わなければ。空虚な言葉を口から吐き出すように絞り出す。
「残してしまってごめんなさい」
私は、いつだって”1人分”が食べられなかった。
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