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「今日のナツは良くなかったね」
とっぷりと暮れた夜空の下を音子先輩と歩く。
またあの、黒猫のような格好。と言っても、喫茶店の制服も十分に黒猫のようだった。
「私のことばっかり見てたでしょ?」
上目使いに問い詰められて、返す言葉に詰まった。夜の闇の中でも、音子先輩の瞳の中はつやつやと光っている。まさか、星の光に照らされているわけでも無いだろうに。
「すみません……」
認めざるを得ない。
音子先輩は観念した僕に満足した様子で、しかし「こんなんで、任せていいのかな」と意図のわからない言葉を口にした。
「え? 任せるって?」
「……私、辞めるの」
「え、辞めるって……?」
「つきひかり」
驚いて見た音子先輩の顔は、世の中に起こる全ての不幸をすっかり悲観したような表情になっていた。
「なんで、」
「んー。そうだねぇ~……」
音子先輩は理由を言わなかった。
マフラーの中に一層顔を埋めて、「なんとなく、かな」そういって曖昧に、溢した。
なんとなく、なんて。そんなわけがない。
僕よりも音子先輩の方が、月光珈琲店を好きだったじゃないか。
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