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【第一話】御曹司との出会い
『桜野グループ』
そんな会社の名前が、この日常の中にはありふれている。
この一目惚れして買った透き通るガラスコップだって、後で知ったことだが、桜野グループが作ったものであるそうだ。
そんな会社に、面接をして受かってしまったのだ僕は。
どきどきしながら、想良は桜野グループと金色で書かれた看板の横を通り過ぎる。
少し錆びついていたが、それが、どれだけ大きな会社で、どれだけの歴史があるのか、ということを物語っていた。
近づくと、自動ドアがウイーン…と開いた。中には、受付の人が数名いる。
上には豪華なシャンデリアが飾られており、地震で落ちるのを防ぐためか天井に固定されていた。
受付の人が心配して声をかけてくれる。
「どうしたんですか?…もしかして、新入社員の方ですか?それでしたら、一度社長のところへ向かわれるようにとのことですよ。社長室は、この先をまっすぐいって――」
受付の人が言った通りに廊下を歩いていく。床は豪華な大理石で出来ていた。さすが、儲かっている会社の本社なだけある。
『社長室』
と書かれた豪華なプレートがある部屋をノックする。すると、秘書らしき人物がそっとドアを開けて言った。
「どちら様でしょうか?」
「あ、えっと…今日からここで働かせていただくことになりました、砂城 想良と言いますっ、あの、受付の人に新入社員は社長室に行くようにと言われて来たのですが…」
そう言うと、秘書らしき人物は『少々お待ち願えますか?』とだけ言うとドアを閉めた。
廊下に一人取り残された想良は、ただそこにピシッと突っ立っておこうと決め、何を言うこともなくただそこに居た。
すると、しばらくしてドアが開いた。
「…いいですよ、社長に呼ばれていたのが貴方だと言うことは確認できました、それではどうぞ。」
想良はまるでロボットのように社長室の中に入っていく。すると、一部屋何にもない部屋があって、そこからが社長室になっていた。
「何かあってからでは遅いですので、秘書である私の部屋を挟んでおります。そしてここが社長室ですよ。…それでは、私はここで失礼致します」
本当はここに居てほしかったのは言うまでもないが、想良は何もいう事なく社長室につながるドアを開けた。
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