非人界 EPI1 伊藤悠樹

始まり 1

　俺は、昨日、同居している両親をナイフと包丁で刺した。
　突発的じゃない。計画してやった。
『親父かお袋が、また例のセリフを口にしたら、絶対に殺す』
　そう心に誓い、実行した。
　まずは、通販で買って部屋に隠しておいたアウトドア用のナイフで、親父の腹を刺した。
　刺されるまで、親父は実に無防備だった。刺されると、派手なくしゃみみたいな叫び声をあげて逃げようとした。
　ところが親父は、二歩歩いただけで、ナイフを腹に刺したまま、うつ伏せに転倒した。それきり沈黙し、動かなくなった。
　俺は、うんざりした。いや、ナイフがますます深く親父の腹にめり込んだのはけっこうなことだけどさ。でも、そんな体勢になられると、お袋を刺すのに、そのナイフ、使えねえじゃんかよ。
　仕方ないから、俺は、キッチンから包丁を取ってきて、お袋を刺した。