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やがて朧山パーキングエリアに差し掛かるとき、ずっと弄んでいた知恵の輪が、外れた。僕は彼に告白した。
「僕、電車に飛び込んだ人を見たことがある。僕の目の前で」
「へぇ、」
「友達だった。本当に、僕のすぐ目の前だった。少し、竜胆さんに似ていたかもしれない」
「俺に?どんなところが、」
「いつも一人で、タバコを吸って、何にも縛られないって顔してた。」
――いつも同じ踏切で一緒になる子だった。示し合わせたわけでもないのに、下校のときはだいたいそこで一緒になった。
それから少しずつ喋るようになって、ああ、この子と僕は、孤独なところが似通っている、そんな自分勝手でありがちな妄想をした。今思えば、それは思い上がりだった。
彼はイヤホンで音楽を聴きながら、踏切の中に入っていった。そのときに聴いてた音楽すら、僕には見当もつかない。
結局僕は、彼のことを何も知らなかった。
似ているなんて思わずに、知ろうとすればよかった。今はもう全部が遅かったんだということしかわからない。
ただ、遮断器の下に彼の腕が転がっていて、それが傷だらけだったのを今でも覚えてる。
洗いざらい吐いた直後、不意に竜胆が僕の右手を握った。彼の手は温かい。
「……誰かと似ているって思うことは、悪くないさ。」
竜胆もまた、彼と僕とが似ていると思ったからだ。
だが彼は、そこから僕を知ろうとしてくれた。
――竜胆くんの手を、何があっても離さんように――
アンナがすぐ耳元で、囁いたような気がした。
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