1. みたい

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 レジ台に、彼がエナジードリンクの缶を差し出す。僕はすでに彼のいつものタバコを二箱取って待っていた。 「お、サンキュー、」 「……今から、どこ行くんですか」  僕はバーコードを読み取りながらなんとなく尋ねた。 「今日はこのまま、松本の方。」 「ふうん。何、積んでるんですか」 「今日は菓子が多いかな。あとは、まぁ……色々」  説明が難しい品物なのか、彼の言葉はなんだか曖昧だった。僕は冗談で言った。 「言えないもの?死体とか?」 「はは。それもあるな」  彼もその冗談に応えたのだと、その時は思っていた。 「夏生は浮かない顔だな、なんかあったの」 「……え、」  急にそう言われて、僕は戸惑った。早速下の名前で呼ばれたのもそうだが、そんな踏み込んだ話をされるとは思っていなかった。 「そういう顔してたから」 「別に……」  僕はバックヤードをちらりと見た。店長は奥でずっとパソコンをいじっている。こちらを気にする様子はない。少し迷って、彼に小声で告げた。 「……内緒なんだけど、ここ、辞めたくって。」  すると彼は、へぇ、と言って、なぜか嬉しそうな顔をした。 「じゃ俺んとこ来る?」 ――俺んとこ? 「トラックの運転、楽しいぜ。一人でいる時間も長いし、夜に仕事できるし。夏生、向いてると思うけどな。」  言いながら、ズボンのポケットから財布を取り出した。代金と一緒に、端の折れ曲がった名刺が出てくる。 〈(有)ハギノ輸送サービス  ドライバー 萩野 竜胆〉 「はぎの……りんどう……?」 「おう」  とても詩的な響きだ。 「……これ、本名?源氏名?」 「ばぁか。運転手が源氏名使って何すんだよ。本名だよ。オヤジがつけてくれたんだぞ、カッコいいだろうが」  意外だった。彼が秋の草木の名を冠するということも、またドライバーの仕事に誘われたことも、何もかもが僕には新鮮に感じた。  この時点で僕が彼に抱いていた憧れのようなものはすっかり消えていたが、むしろ以前より興味が湧いた。彼にも、ドライバーの仕事にも。 「気が向いたらここに連絡くれよ、」  手を軽くひらひらさせて、竜胆は暗い駐車場に消えていった。  ドライバーか。  夜毎、渡り鳥のようにあちこちを飛び回る仕事。  真夜中に高速を走り抜けるのはどんな気分なんだろうか?  竜胆の向かった駐車場にはトラックが三台、まばらに止まっている。アルミの荷台は暗闇の中にありながら、不思議と鈍色に光って見えた。  それから四日経って、僕は竜胆に電話をかけた。
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