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「嫌だったのか? 剣道だって全国に出るほど強かったのに好きじゃなかったのか?」
戦う政宗は男の俺からみてもほれぼれするほどかっこよかったのに。
「好きとか嫌いとかじゃないの。やりたいとかやりたくないとか思う事さえ許されなかったの。やって当然。そのうち親の決めた人と結婚して跡取りを産んで道場を存続させていく。それがやるべきことだったの」
でも本当の政宗はそれを望んでいなかった。
綺麗なものが好きだったし、可愛い女になってみたかった。
「いつもギリギリで綱渡りをしているみたいだった。清伊たちが女の子の話をしても全然興味がなかった。付き合いたいとか欲情しない自分ってなにかおかしいのかなって……小さな違和感がどんどん大きくなっていって」
張り詰めた糸が切れた。
目の前で話す政宗は俺の知らない人のように見えた。
自分が見てきたものとあまりにもかけ離れている。もっと堂々としていて動じなくて頼りがいがあって。
男だったらこんな風になりたいって思わせていた男が、幻だったというのか。
何も言えない俺に政宗が笑いかける。
「がっかりしたって顔をしてるね。だから言いたくなかったの。卒業式のあとの修羅場もすごかったわよ」
道場は継がない。女になりたい。そう伝えると父は怒り狂い母は寝込んだという。
あまりにも想像通りの展開に笑うしかなかったと言った。
「勘当されるように家を出て、清伊たちの連絡先も全部消して、政宗はいなくなった」
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