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酔いに任せてグラスを重ねていると呆れたようにキヨさんが水を運んできた。
「飲みすぎよ。これを飲んだらお帰りなさい」
いやだ、と子供のように首を振った。
「政宗、俺はわかんないんだ。なんでお前が俺を捨てたのか。本当のことを教えてくれなかったのか。どうして一人で悩んで勝手にいなくなったのか」
そうだ。
政宗が女になったのが悲しいんじゃない。
そんな大事な事を教えてくれなかったことが悔しくて仕方ない。言っても仕方ないって切り捨てられたことが悲しいんだ。
「俺はそんなに頼りない? ないよな、お前の事傷つけて何の力にもなれないくせに友達面をしてさ。捨てられて当然だけど俺はお前が好きだった」
誇らしかった。
こんなにかっこいい奴が俺の友達なんだぜって見せびらかしたかった。でもそんなの俺の勝手な自己満足でしかない。
「ずっとさみしかった。悲しくて認めたくなくて……なんでいなくなったのかわかんなくて……辛かった」
平気なフリをしていたけどショックは大きかった。
友達だって思っていたのは自分だけだったんだって。政宗にとって俺はその程度だったのかって。
知らず涙がこぼれた。
「また友達になれない? もう俺のことは嫌い? 俺はお前を失いたくない」
ズルズルと鼻をすすりながら言葉を繋げた。どうしてもこれきりにしたくなかった。キヨさんは呆気にとられたように固まっている。
そして我慢できなくなったのか、プっと噴き出した。
「やめて、清伊。あなた顔がグチャグチャよ。いい大人がこんな……」
ティッシュで顔を拭かれながら俺は政宗の、いや、キヨさんの腕を掴んだ。
「なあ、ダメかな。もう遅すぎる? 俺はまだお前の友達でいたい」
ぐるぐると回る頭を振りながら、こんな弱っちい俺は卒業だと強く思った。 男だとか女だとか細かいことを気にして大切な友人を失うようなちっさい自分なんかいらない。
親友を傷つけてまで守る「普通」なかクソくらえだ。
これからはもっとお前に信用してもらえるようになるからさ__だから隣で笑ってて。
「清伊……」
俺を呼ぶキヨさんの声が震えていた。
テーブルにポツリと涙の雫が落ちる。
「いいの? こんな奴と友達で」
「いいに決まってる」
「でも、男だし女だよ」
「だからそういうの全部含めてお前がいいって言ってるんだ」
酔ってふらつく足を踏ん張ってキヨさんを抱きしめた。
思っているより華奢で、でもデカい、俺の親友を。
「お前はお前だよ」
何があっても変わらない、俺の大切な親友だ。
キヨさんはしばらく泣いたまま頷いて、最後に「うん」と笑った。
fin
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