今日 俺を 卒業します

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 日に日に後悔といら立ちが募っていく。  一人で悩んで勝手に女になった政宗に。それ以上に、友達面をしながら何もわかっていない自分に。    どうでもいい話に笑っていた時もあいつは一人で悩んでいた。俺はひとつも気がつかず、ずっと友達だよなって信じていた。  俺たちの形が、当たり前だと思っていた日常が、政宗の犠牲の上に成り立っていたなんて信じたくなかった。  ニュースとかでLGBTについて見聞きして、差別はよくないと口当たりのいい事を言いながら、頭の中では全然理解できていない。  それを当事者にぶつけた。  なんで男のままでいられなかったのかなんて、絶対に言っていい言葉じゃなかった。 「ああ俺は馬鹿か!」  政宗の傷ついた顔を思い出す。諦めたような笑みも。きっとそうやっていろんなものを捨ててきたのだ。自分らしくあるために。  どうして受け入れてあげられない?  政宗だろうがキヨだろうが大切な友人には変わりないのに。  政宗がこうなりたいと必死につかんできたものを、俺は認められず蔑んでいる。  いつの間にか足はバーへと向かっていた。  何を話せばいいのかわからないまま重厚なドアを開ける。あの時と同じようにキヨさんが「いらっしゃいませ」と言葉を出した。  俺に気がつくと少しだけ眉を寄せ、だけどすぐに接客用のスマイルへと変化する。 「今日はおひとりですか?」 「そう」  俺の不貞腐れた顔に気がついているのだろう。カウンターではなく誰とも接しないような一番奥の天蓋の下へと連れていかれる。 「ごゆっくりどうぞ」  離れていく後ろ姿は女のもので、たくましかった政宗とは全く違うものだ。  だってあいつはもういない。  キヨさんという一人の女になったのだから。  宝石のようなカクテルを流し込みながらずっと政宗を見つめ続けた。何かわかるものがあるかもしれなくて。  こんなに長くあいつを見ていたのは初めてだった。  親友なんて言いながら実際何も知らなかったことを思い知らされる。  そこにはいたのは俺の知らない政宗だった。いや、キヨさんだ。彼女はキラキラと輝きながら楽しそうに存在していた。  きっと政宗が成りたかった理想の姿なんだろう。          
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